ドゥカティ ディアベルカーボン(2015)
- 掲載日/2014年06月25日【試乗インプレッション】
- 取材協力/Ducati Japan 取材・文/友野 龍二 写真/山下 剛
世界が驚き、世界が認めた衝撃的デビューから3年
キープコンセプトながらも大幅なマイナーチェンジを敢行
2010年11月にミラノで開催された EICMA 国際モーターサイクルショーで鮮烈なデビューを果たしたディアベル。世界的に需要のあるクルーザージャンルに進出することは正式発表前のスパイショットから予想されたが、それまで信条としていたスポーツ性をかなぐり捨ててまで営業戦略を優先するのか? と揶揄する声もあった。ところが発表されたディアベルはスタイルこそクルーザー的なロー&ワイドなフォルムだが、その中身はスポーツマインドあふれる正真正銘のドゥカティであった。
それもそのはずで、開発陣は『純血のレーシングエンジンを逞しいシルエットで包み込む』という挑戦からこのプロジェクトを進めたのである。スーパーバイクシリーズ直系の改良版テスタストレッタエンジンを伝統のトレリスフレームに搭載し、ブレンボ製モノブロックキャリパーやフルアジャスタブルサスペンションによって足元を引き締めた。さらに、出力特性の異なる3通りのプログラムをライドバイワイヤで制御し、トラクションコントロールや ABS など最新の電子デバイスで武装したのである。
そして今回、フル LED ヘッドライトやエンジンのデュアルスパーク化により、その個性と実用性に磨きをかけた。
ディアベルカーボン(2015)の特徴
ディメンションに変更はないものの
新技術の採用によってその地位を盤石なものに
低く身構えたその佇まいはスタートの合図を待つ一流アスリートの力強い姿を連想させる。このプロポーションは 1,590mm のホイールベースと 750mm(本国仕様は 770mm)のシート高によるところが大きく、ストップ&ゴーの多い日本の道路では、その安定性と足つき性の良さが安心感に繋がる。その結果、ビッグバイクに不慣れなライダーや国産モデルからの乗り換え組を多数獲得してトップセールスを記録するほどの人気を博した。そんなディアベルがデビューから3年の時を経てモデルチェンジを敢行したのだが、ディメンションに変更はなく、スタイルもひと目でディアベルと識別でき……いや、むしろどこが変わったの? と錯覚してしまうほどのキープコンセプトぶりであるが、その中身をひとつずつ紐解いてみると、その変貌ぶりに驚かされる。
まず心臓部となるエンジンは、定評のあるテスタストレッタ 11°(イレブンディグリー)が DS(デュアルスパーク)となり、1気筒あたり2本のスパークプラグが装備される。インジェクターは噴射コーンのサイズと角度を変更し、未燃焼ガスの燃焼を促すセカンダリエアシステムを導入。これらによって燃焼効率の向上と燃焼時間の短縮を図り、スロットル操作に対する応答性の良いエンジンへと調教された。特に低回転域での扱いやすさは格段に向上し、発進やUターンなどで気を使わずに済むのはありがたい。
そしてニューモデルのまさに顔にあたるヘッドライトは、つや消しアルミニウムのアウターボディにビルトインされる多角形の一体レンズで構成され、ポジション球だけでなくロービーム/ハイビームともに LED 化された。もうひとつの大きな識別ポイントとなるのが短くシャープになったステンレスのデュアルサイレンサーである。前モデルでは日本の保安基準をクリアするために本国仕様と同一デザインでありながらも 10cm 延長されていた。違和感こそ少なかったものの、贅肉のないマッシブな体系をスポイルしている感は否めなかった。だが今回は、延長せずとも国内での登録が認められ、本国仕様と同形状の斜めにカットされたテーパー状サイレンサーは見入ってしまうほど美しく迫力がある。実用的なところではタンク上部の TFT カラーディスプレイに燃料計とサイドスタンド警告灯が追加されるなど、エンジンの特性をはじめ、日本の道路事情にますますマッチする仕様へと進化を果たしたのである。
ディアベルカーボン(2015)の試乗インプレッション
走り始めた瞬間に進化を感じられるエンジンは
ビギナーを安心させ、ベテランを満足させる
ディアベルはハンズフリー・イグニッションを採用しているため、エンジン始動用の鍵穴は存在しない。車両から 1.5m 以内に近づくと自動的にキーコードを認識するので、ライダーは電子キーをポケットに忍ばせておくだけでよい。まずトリガー・スイッチを押し下げてイグニションをオン、そしてトリガー・スイッチを上に押し上げると露出するスターターボタンを押せば 1,198cc の水冷Lツインユニットが即座に目を覚ますというしくみだ。以前からもそうであったが、「この音量でよくもまぁ」と思えるほど、アイドル音は実に元気である。しかし音質が違う。サイレンサーが長いためにわずかに籠りが感じられ、それが調律のとれたジェントルな音色を奏でていた前モデルに対し、新型の太く短いステンレスサイレンサーは弾けるような躍動感のあるイキの良い音質である。
乗り心地が改善されるとともに前後にワイドになった 750mm のシートに跨ってクラッチレバーを握り、ギアを1速に入れてゆっくりとミートする。アクセルを開かずともそれだけでスルスルと走り出すさまは、この DS エンジンが只者でないことを物語る。アクセルを開けながら2速、3速、4速と繋いでいくと、右手の操作とリアタイヤの回転が直結しているようなパンチの効いた加速が得られた。ピストンの変更により、圧縮比が 11.5:1 から 12.5:1 へと高められた効力もあると思うが、馬力ではなくトルクで前に進む感覚がいっそう強まった、実に逞しいものだ。これはデータも裏付けており、それまでの 11.6kgm/6,750rpm から 12.5kgm/6,250rpm へとピークトルクでは 0.9kgm 引き上げられながらも、発生回転数は 500rpm 下がっている。極低回転域で格段に増した粘り強さは、低速での右左折やUターンを行う際には大きな安心感が得られる。こと、Uターンに関してはロック・トゥ・ロックで 70°ものハンドル切れ角を誇るため、ロングホイールベースを忘れてしまうほど小さな回転半径での旋回が可能なのである。
シフトダウン時の不快なバタつきを抑えるスリッパー機能とエンジンの回転力を圧着力に変換する機能を備えた湿式油圧クラッチは軽いレバーアクションでの操作を可能とし、ブレンボ製モノブロックラジアルマウントキャリパーが確実な制動を約束、ブレンボ/ボッシュ製の ABS と DTC(ドゥカティ・トラクション・コントロール)が安全をサポートする。8段階の介入レベルを有する DTC は、エンジン出力が 100hp に絞られてタウンユースに最適な穏やかな特性となる『アーバン』モードではレベル5に、112hp となるが長距離&長時間のライディングに優しい特性の『ツーリング』モードではレベル3に、112hp を瞬時に路面へと伝達するレスポンスの良さが特徴の『スポーツ』モードではレベル1に設定されている。なお、DTC レベルは任意で変更することも可能である。
『スポーツ』モードのキャラクターはディアベル(=悪魔)の名に恥じぬ獰猛さであり、41°までのリーンアングルを許容する車体を深くバンクさせたまま、コーナリング中にアクセルを開けると、240 サイズの極太タイヤが生み出す強烈なトラクションによってフロントタイヤはイン側に向けてわずかに舵角を増す。するとオーバーステアの特性が強まって鋭い旋回体制に入るが、同時に車体が起き上がろうとする力も強く作用する。そのため、ライダーは積極的に上半身を動かし、荷重配分を変えて旋回性をコントロールする必要がある。またフル加速時には、Gでお尻が後方へと移動してしまうのを防ぐためにニーグリップが不可欠になるなど、全域にわたってトルクフルになったエンジンは、スキルの高いライダーを満足させる要素も十分に秘めている。
フル LED ヘッドライト、燃料計、サイドスタンド警告灯を新たに装備し、バルブクリアランスのチェックが 24,000km 毎から 30,000km 毎へと延長されるなど、安全性と実用性を一層高めたニューディアベルは今後も確実に支持層を増やすことだろう。
プロフェッショナル・コメント
発売前のディーラー研修会で乗って感動
その魅力と存在感に磨きをかけたニューディアベル
今までは、ディアベルの代名詞と言えば特徴的な極太のリアタイヤでした。しかし今回のモデルチェンジにより、イグニッションをオンにした瞬間にフル LED で主張してくるヘッドライトも特徴のひとつになっています。その結果、これまで以上にディアベルが “ほかにはないモーターサイクル” になりました。短くスラッシュカットされたサイレンサーはディアベルの美しいホイールをさらに際立たせ、前モデルより座りやすくなったシートが自然な着座位置をライダーにもたらしてくれます。
そして何より圧巻なのは、新しくなったエンジン。テスタストレッタ 11°の進化型は、デュアルスパークの効率の良い点火と、セカンダリーエアシステムによるクリーンな排気ガス&低速域でのトルクアップで、本当に扱いやすいエンジンに仕上がっています。ドゥカティジャパン主催のディーラー研修で私も実際に乗りましたが、アクセルを開けての高速域では前モデルとそれほど変わらないものの、低速域=市街地などの STOP&GO を繰り返すようなシチュエーションでは特に威力を発揮しました。低速トルクが改善されているのが明らかにわかります。
使い勝手の部分では、メーター内に追加されたガソリン残量表示は便利ですね。できれば全モデルに装備してほしいところです。ハザードランプが装備されなかったことが惜しいですが、それを差し引いても余る魅力と存在感を持つニューディアベル。ぜひ店頭でご覧になってください。(ドゥカティ京都 ストアマネージャー 願化 伸也さん)
ディアベルカーボン(2015)の詳細写真
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