VIRGIN DUCATI | 第2回「パワーハウスに聞く4バルブのポイントと扱い方」 1098Sエンジン完全分解

第2回「パワーハウスに聞く4バルブのポイントと扱い方」

  • 掲載日/2011年02月16日【1098Sエンジン完全分解】
  • 文/Keita Kasai  写真/Yasushi Takakura  取材協力/パワーハウスモータークラブ
スーパーバイク1098Sの画像

明るいLEDライトでサイレンサー内部を確認し、オイルの付着があればオイル上がりや下がりなど、燃焼室にオイルが入っている可能性がある。間もなくオイルも減り始め、オーバーホールが必要になる。オイルレベルも重要。高回転を前提にしているエンジンなので、オイルの入れ過ぎは良くない。多くてもオイルレベル間で2/3まで。

オーバーホールをする目安とは

オイルとオイルフィルター以外の消耗部品を交換しないまま10,000kmも走行したにもかかわらず、性能低下を感じられなかったDUCATI 1098S。しかしエンジン内部にはなんらかのダメージの蓄積があるのかもしれない。それを調べるにはエンジンを完全分解しなければわからない。作業を頼んだのは『パワーハウスモータークラブ』。ベベルLツインの登場とほぼ同時に設立された名門ショップだ。

さて、いよいよオーバーホール……といきたいところだが、一般的にオーバーホールが必要な時期とはどこで判断すべきなのかを考えてみよう。

性能低下は徐々に起こるものが多いが、よほど敏感なオーナーでなければわからないこともあり、しかも乗り手がパワーダウンを感じる段階になると交換部品も膨大になる。早い段階で、金額的にも負担の少ないタイミングを知りたい。パワーハウスの代表、中野鉄雄さんに聞いてみた。

「まずは日常点検。ストールやアイドリングのバラつき。これが最初に起こる兆候です。サイレンサーの中をのぞいて、オイルが燃えた跡があれば間もなくヘッドに影響が行きますし、内側が白く乾いているのは異常燃焼やガスの薄さを示しています」

そうした兆候を感じるためには、調子が良い間にオーナー自身がその感触を憶えておかなければならない。では、どういったところに気を配っていればいいのだろう。

「水温を50度以上に上げた状態にし、車両を走らせて40km/h程度でクラッチを切る。この時のエンジンやチェーン、ホイールの音を憶えておきます。異常は音や微振動からわかるものも多いですから」

スーパーバイク1098Sの画像
オイル点検窓の曇りは回転が上がりにくい市街地走行が多いと発生する。オイルの白濁はオイルに水分が混ざっている証拠。
スーパーバイク1098Sの画像

冷間時にチェックし、ラジエターキャップのゴム製パッキンが油分で光っていたらガスケットやシール類の破損やシリンダーの歪みで冷却水の通路にオイルが混入している。

添加剤選びは慎重に

オイル量の管理は別項の解説を参照してほしい。添加剤はゴムに悪影響を与えるものもあるので勧めない。しかしオーバーヒート対策として「通常、水冷にはワコーズのヒートブロックを入れています」と中野さんは話す。さらにプロの判断は上をいく。

「エンジンの音とタイヤの減り、ディスクローターの焼け具合。これでその人がどんな乗り方をしているのか、どこにストレスを受けるのかわかります」

一方で、過敏になる必要もない。

「何でもオーバーホール、ではありません。スロットルの同調やベルトの張りなど、調整だけで解決する不調を内部のものだと勘違いしている例もありますから」

そのためにも、調子のいい状態をしっかりと頭と体で覚えておく必要があるのだ。ともかく、オーバーホールしなければならないのかどうかの判断はプロに任せるのがいい。調子が悪いな、と感じたらまずは信頼しているショップに持ち込んで相談してみよう。

スーパーバイク1098Sの画像
スーパーバイク1098Sの画像
パワーハウスではコンディションの把握のためにパワーチェックを行っている。単純に「ピークで何馬力出た」ということではなく、最初のコンディションをどの程度維持しているのかをトルク&パワーカーブで判断。この1098の場合は車軸で154~155ps。サイレンサーが日本仕様のスタンダードなので、パワーは新車時から落ちてはいないと言える。非常に状態は良好。
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ドゥカティが指定するベルトの振動の周波数で張りを調整する「DDS」では熱膨張した際にやや張りがきつくなるので、手で張りを確認。指定値より1mmほど緩くする。経験に基づくプロの作業だ。
スーパーバイク1098Sの画像
10,000kmを走行した1098Sのプーリーとベルト。この程度なら問題にはならないが、プーリーにはベルトの駆動によって細かい傷ができていた。現在の半円状のベルトの歯はタイミングも狂いにくい。
スーパーバイク1098Sの画像
【左】バルブクリアランスを調整するシムがサイズ順に整理され、ダイヤルゲージなど各種の測定器も見える。ロッカーアームのスリッパー面の傷取り研磨やシムの面取りに使う双頭モーターは、トルクが大きすぎると削れる量が多くなるため、小型ものを使う。シムの当たり面は#800のダイヤモンド砥石で仕上げる。【右】創業当時から中野さんが使うシリンダーヘッドの作業台。
スーパーバイク1098Sの画像
【左】25年前に中野さんが製作した6台のエンジンスタンドは今も現役。2ヶ所のマウントを固定するアタッチメントを交換するだけで、ベベルから1098まで対応する。【右】パワーハウスモータークラブは、ベベルの登場とともに創立されたドゥカティ一筋の、日本を代表するプロショップ。代表の中野鉄雄さんはイタリアのNCRでの修行を経て、日本でのドゥカティのチューニングとメンテナンスの頂点ともいえる経験を持つ。海外コンストラクターとの交流も長い。鈴鹿8耐をはじめ多くのツインレースでも活躍した実績がある。

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