ドゥカティ Xディアベル/S
- 掲載日/2016年05月18日【試乗インプレッション】
- 取材協力/Ducati Japan
取材・文/中村 友彦 写真/Ducati Japan
他メーカーとは一線を画する独創的な手法を導入して
クルーザー界の常識を打ち破ったドゥカティ
1980年代半ばに当時の親会社だったカジバが、インディアナというクルーザーをドゥカティブランドで発売したことがあったものの、ドゥカティが初めて本格的に手がけたクルーザーと言ったら、誰もが思い出すのは2011年にデビューしたディアベルだろう。従来のクルーザーの流儀に迎合することなく、ドゥカティならではのシャープなデザインとスポーツ性が盛り込まれたディアベルは、発売と同時に世界中で大ヒットを記録。2014年型でパワーユニットや外装を中心とした仕様変更が行われたこのモデルは、現在でも好調なセールスを維持しているが、クルーザーというジャンルに大きな可能性を見出したドゥカティは、数年前から既存のディアベルとは方向性が異なる新型車の開発に着手していた。こうした経緯を経て登場したのが、2015年秋のEICMAでもっとも美しいバイクの称号を手に入れ、今年度から世界各国での発売が始まるXディアベル/Sだ。
プレスリリースによると、Xディアベル/Sの開発時には、5000、60、40という3つの数字が重視されたと言う。5000は最大トルクの発生回転数(ドゥカティとしては極めて低い)、60は設定可能なライディングポジション(オプションを含めて考えた場合)、40は最大バンク角(クルーザーとしてはかなり寝ている)のことで、この3つの数字にはドゥカティらしからぬ守備範囲の広さと、ドゥカティならではの運動性能に対するこだわりが表れている。とはいえ、個人的にはそれらに加えて1615mmというドゥカティ史上最長となるホイールベースを挙げたほうが、このモデルの特徴がわかりやすいのではないかと思う。
Xディアベル/Sの特徴
既存のディアベルとは異なるキャラクターを獲得するため
ほとんどすべてのパーツを専用設計
Xディアベル/Sを仔細に観察して驚くのは、既存のディアベルと比較した場合の相違点の多さ、と言うか、共通点の少なさだろう。車名からすると既存のディアベルの派生機種、あるいは上級仕様と思われそうなXディアベル/Sだが、実際にはほとんどすべてのパーツが専用設計で、既存のディアベルとの共通点はごくわずかしか存在しない。もっとも、ドゥカティ自身が既存のディアベルを否定しているかと言うと、そういった気配は微塵もなく、今後も同社は方向性が異なる2系統のクルーザーを販売していく予定だ。
Xディアベル/Sを象徴するパーツと言えば、ティアドロップタイプのガソリンタンクや、足を前方に投げ出すフォワードコントロール式のフットレスト、エキゾーストパイプの露出を極力抑えたショートマフラー、エンジンの美観を考慮してフロントに設置されたラジエター(既存のディアベルはサイドラジエターだった)、ベルトドライブ式の後輪駆動などが挙げられる。これらはもちろん、クルーザーとしての魅力を高めるために採用されたパーツだが、その一方でドゥカティは、骨格となるトリレスフレームや心臓部のテスタストレッタDVT 1262エンジンも新設計し、多種多様な電子制御システムの中枢には、クルーザー界で初となる加速度測定ユニットのIMUを導入。さらにはドラッグスターマシンとしての能力に磨きをかけるため、ECUには抜群の発進加速が安定して楽しめるパワーローンチシステムを設定している。こうして特徴を列記してみると、Xディアベル/Sは何とも欲張りなモデルで、見方によっては狙いがわからないという印象を持たれそうだが……。
Xディアベル/Sで最も重要なテーマとなったのは、クルーザーならではのロースピードエキサイトメントと、ドゥカティ製スポーツバイクとしてのライディングプレジャーという、相反する2つの要素を高いレベルで両立することだった。そういう意味では既存のディアベルに通じる資質を持っているわけだが、Xディアベル/Sでは前者の比重が明らかに高まっている。もっとも、だからと言って従来のクルーザーの流儀に迎合したのかと言うと、そういった雰囲気は相変わらず希薄で、Xディアベル/Sはどこからどう見ても、やっぱりドゥカティなのである。
近年のドゥカティの通例に従って、XディアベルにはSTDとSの2種類が存在し、各部のブラックペイントを光沢仕上げとした上級仕様のSは、アルミ鍛造ホイールやブレンボM50キャリパー、DLCコーティングが施されたフロントフォークなどを標準装備。そのかいあって、足まわりのフィーリングはSTDよりSのほうが上質なのだが、実際に2台を同条件で比較した僕が、STDの足まわりに物足りなさや不満を感じたかと言うと、そういう印象はまったく抱かなかった。
Xディアベル/Sの試乗インプレッション
クルーザーならではのロースピードエキサイトメントと
スポーツバイクとしてのライディングプレジャーを追求
2011年に初めてディアベルに乗ったときの感動は、今でもよく覚えている。実はそれ以前の僕は、ドゥカティがクルーザーを作ることにちょっとした違和感を持っていたのだけれど、ロー&ロングの車体を得たディアベルは、驚くほど乗りやすかったのである。具体的な話をするなら、ホイールベースが短くて車高が高いスーパーバイク系では躊躇するようなフルスロットルやフルブレーキングが、低くて長いディアベルでは気軽に楽しめてしまったのだ。もちろんその感触は、今回試乗したXディアベル/Sにも受け継がれているのだが、技術説明会後の僕はキャラクターの比率、スポーツバイクとクルーザーの比率を考え、既存のディアベルを5:5とするなら、Xディアベル/Sは3:7~4:6くらいになっているのだろう、という予想を立てていた。そしてその予想に対する結論は、当たらずも遠からず(?)という感じだった。
Xディアベル/Sの最大の魅力は、ゆったり流した時の充実感だと思う。もっとも、近年のドゥカティ各車は年を経るごとに日常域での扱いやすさが向上しているのだが、既存のディアベルを含めた他のドゥカティが、加減速時に最高の快感が味わえる特性だったのに対して、Xディアベル/Sは適度な速度を保って淡々と走るのがすごく楽しい。この乗り味が実現できた原因としては、かなり安定志向に設定された30度のキャスター角と1615mmのホイールベース(既存のディアベルは28度/1580mm。ちなみに真逆のキャラクターと言うべき1299パニガーレは24度/1437mm)、乗り手の身体が自然にリラックスするフォワードコントロール式フットレスト、耳障りなノイズが発生しないベルトドライブ式の後輪駆動、ライダーに近い位置で心地いい排気音を聞かせてくれるショートマフラーなどが挙げられるけれど、可変式バルブタイミング機構の導入によって、いついかなるときも従順な反応を見せてくれるテスタストレッタDVT 1262エンジンも、Xディアベル/Sの充実感を語るうえでは欠かせない要素。いずれにしてもこのあたりの特性を把握した僕は、既存のディアベルとは方向性が異なるモデルとして、ドゥカティがXディアベル/Sを開発した意義を、しみじみ痛感することになったのだった。
とはいえ、話はそこで終わらないのである。乗り手がソノ気になってアクセルを全開にすれば、Xディアベル/Sは怒涛と言いたくなる加速を見せてくれるし、コーナリングでは操る手応えがしっかり満喫できる一方で、車格が大きくなったことのネガはほとんど感じられない。もちろん絶対的な運動性能では、既存のディアベルを含めた他のドゥカティのほうが、一枚も二枚も上手だろう。でも乗り手が積極的にスポーツしたい!と思ったときのXディアベル/Sの感触は、紛れもなくドゥカティで、このバイクでワインディングロードを走ったら、どんなライダーだって身体の中でアドレナリンの分泌を感じるに違いない。個人的に意外だったのは、加速中の踏ん張りが利きづらいフォワードコントロール式フットレストでも、スポーツしている感が十分に味わえたことで、ステップバーへの荷重と抜重でフロントまわりに発生する自然舵角をコントロールする感触は、こういった機構に慣れ親しんでいない僕にとって、なかなか新鮮なものがあった。
前述したように、試乗前の僕はXディアベル/Sのスポーツバイクとクルーザーの比率を3:7~4:6くらいと予想していたのだが、現在は反則を承知で、4:7~5:6と言いたい気分である。何と言ってもこのモデルは、クルーザーならではの魅力だけではなく、スポーツバイクとしてのライディングプレジャーもしっかり盛り込まれているのだから。もっともそうなってくると、既存のディアベルの立場が微妙になってしまうのだけれど、今の僕が既存のディアベルに乗ったら、またしても反則を承知で、キャラクターの比率は6:5と言いそうな気がする。
Xディアベル/Sの詳細写真
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