ドゥカティ モンスター1200R
- 掲載日/2016年06月29日【試乗インプレッション】
- 取材協力/Ducati Japan 取材・文/中村 友彦 写真/Ducati Japan、VIRGIN DUCATI.com 編集部
四半世紀に渡って熟成を続けて来たモンスターシリーズ
M1200Rは、その最新にして最強のモデルだ
多種多様なモデルを取り揃える現在の姿からは考えられないが、今から四半世紀前のドゥカティは、スーパースポーツに特化したメーカーだった。当時のラインアップには、ツアラー的なキャラクターのパゾが存在したものの、主軸はあくまでもサーキットやワインディングで最高の快感が味わえる851/888と900SS系で、世間の認識はドゥカティ=スーパースポーツ。そんな状況に一石を投じたのが、1992年から発売が始まったスポーツネイキッドのモンスターシリーズだ。日常域での扱いやすさを重視したこのシリーズの成功を通して、ドゥカティはLツインの可能性を再認識し、以後は少しずつ他のジャンルにも目を向けていくようになったのだから。そういう意味では、2000年代に入ってから登場したムルティストラーダやハイパーモタード、ディアベル、スクランブラーなどは、広い意味ではモンスターの発展型……と言えなくもないのである。
もちろんドゥカティは、自社にターニングポイントをもたらしたモンスターを発展させることも忘れていない。2008年から発売が始まった第2世代車では、モトGPレーサー・デスモセディチの技術を転用したハイブリッドトレリスフレームを導入し、2014年に登場した第3世代車は、スーパーバイク用をベースとする水冷4バルブのテスタストレッタ11°エンジンを標準採用(従来は空冷2バルブが主力)。2016年から発売が始まるM1200Rはその最新仕様で、モンスター史上最強の運動性能を獲得している。
モンスター1200Rの特徴
モンスターの潜在能力をきっちり引き出すべく
専用設計パーツを用いたメーカーチューニング
近年のドゥカティが生み出すニューモデルは、標準仕様と上級仕様のSをほぼ同時期に開発・発売するのが通例になっている。M1200もその通例に従い、2014年のデビュー当初から標準仕様とSを併売していたのだが、M1200/Sの開発陣の中には、“モンスターの潜在能力をもっと引き出したい!”という欲求があったようで、今年度から発売が始まるプレミアモデルのRでは、随所に専用設計パーツを投入したメーカーチューニングが行われることとなった。
外観から判別できるM1200R用の特徴は、スポーティさを強調するために一新された外装、軽量化に貢献するアルミ鍛造ホイール、ハイグリップ指向のピレリ・ディアブロスーパーコルサSP(リアのサイズは190→200にワイド化)、ローレットが刻まれたレーシングタイプのステップバー、ユーロ4規制への対応を前提に大容量化が図られたマフラーなどだが、高圧縮化(12.5→13:1)や吸排気系の刷新で最高出力を135/145→152psに高めたパワーユニットや、車高を15mm高めると同時にセッティングを刷新したオーリンズ製の前後ショックユニットも、Rの資質を語るうえでは欠かせない要素。3種のライディングモードや(アーバン/ツーリング/スポーツ)、介入度合いが任意で調整できるABSとトラコンなど、多彩な電子制御にはM1200/Sのシステムを引き継ぐものの、これらももちろん、Rの特性に合わせて設定を見直している。
なお昨年までの日本市場で販売されたドゥカティ各車は、世界一厳しい排出ガス規制に対応するため、最高出力をやや引き下げた状態で販売されていたが(M1200/Sは126ps)、ユーロ4規制を前提に開発されたM1200Rは、日本仕様もイタリア本国と同等の152psを発揮。また、足つき性に対する配慮として、既存のM1200/Sの日本仕様は座面高が770mmとなるローシートを標準装備していたものの、運動性を重視するRでは、イタリア本国と同じ830mmのシートが標準になっている。
モンスター1200Rの試乗インプレッション
ネイキッドスポーツと言うよりも
ネイキッドスタイルのスーパースポーツ
2014年にデビューしたM1200/Sは、モンスターシリーズの歴史を語るうえで欠かせないモデルであり、既存のM1100/Sとは一線を画する動力性能と親しみやすさに、僕は大いに感銘を受けた。とは言えその一方で僕個人は第3世代に移行したモンスターに対して、微妙なもどかしさを感じていた。どうしてそんな感情を抱いたかと言うと、それはおそらく、近年のドゥカティのラインアップが急速に拡大したからだろう。例えば1992~2000年代前半なら、僕は自信を持って“親しみやすいドゥカティが欲しいなら、モンスター”と言い切ることが出来た。でも2014年のラインアップには、すでにムルティストラーダ1200やディアベルが存在し、そうなると親しみやすさという観点では、モンスターは推しづらい。もちろんM1200/Sには、ムルティストラーダ1200やディアベルでは味わえない、軽くて小さなモデルならではのスポーツ性が備わっていたけれど、2013/14年にパニガーレに発展を遂げたスーパーバイクシリーズが、親しみやすさを格段に高めた状況では、M1200/Sの乗り味は、僕にとっては少々中途半端に思えたのだ。もっとも、中途半端は好意的に解釈すれば汎用性が高いと捉えることができるし、僕がもどかしさを感じた背景には、試乗したM1200/Sが、シートが低くて馬力が控えめな日本仕様だったから……という事情があるのかもしれないが。
さて、初っ端から歯切れの悪いインプレになってしまったが、M1200/Sに微妙なもどかしさを感じた僕にとって、M1200Rは“我が意を得たり!”と言いたくなる乗り味だった。そう感じた最大の原因は大幅刷新を受けた足まわりで、ホイールベースが相変わらず長めであるにも関わらず(M1200R:1509mm、M1200/S:1511mm)、このモデルは実によく曲がる。いや、単純な旋回性の話をするなら、能力としてはパニガーレのほうが高いものの、M1200Rのコーナリングにはモンスターシリーズならではの自由度の高さと安心感があるから、乗り手はどんな場面でも妙な緊張感や恐怖を伴わずに、気軽にズバッとコーナーに入って行ける。そのあたりを確認した僕の中には、“これぞモンスター”という言葉が浮かんできたのだが、逆に言うならM1200/Sは、幅広い層のライダーを想定した結果として、やっぱり本来の資質が少々見えづらくなっていたのかもしれない。
一方のエンジンに関しても、M1200Rはなかなかの好印象だった。今どきのスーパースポーツが200ps前後をマークしていることを考えれば(1299パニガーレのフルパワー仕様は205ps)、152psという最高出力は取るに足らないレベルのように思えるけれど、M1200Rの場合は大排気量Lツインならではの加速力、後輪が路面を蹴るトラクションが明確に伝わってくるものだから、力不足など微塵も感じない。と言うか、ストレートでアクセルを全開にした際の爽快感と陶酔感は、現行ドゥカティの中では最も上質と思えるほどで、僕としては熟成が進んだテスタストレッタ11°の優れた資質を、改めて思い知った次第だ。なお一昔前のチューニングエンジンと言ったら、得るモノがあれば失うモノもあるのが普通で、具体的には低中速域でトルクの細さや扱いづらさを感じるケースが多かったものの、M1200Rのエンジンにそういった気配は一切なかった。
M1200/Sを含めた従来のモンスターシリーズがスポーツネイキッドだったのに対して、M1200Rはネイキッドスタイルのスーパースポーツ、というのが、試乗を終えた僕の率直な印象である。その結果としてモンスターの特徴のひとつだった親しみやすさは、多少なりとも薄れた気がするけれど、多種多様なモデルがラインアップに並ぶ現在、M1200Rが示した方向性は、今後のモンスターが進むべき道を示しているのではないだろうか。そんなM1200Rに唯一の異論を述べるとしたら、ついに200万円の大台に突入した価格が挙げられるけれど、実際にこのモデルを体感した僕としては、安易に高い、などと言うつもりはまったくないのだった。
モンスター1200Rの詳細写真
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