シリーズ最大排気量のエンジンを搭載したドゥカティ・スクランブラー1100スペシャルの持つ存在感を探る試乗インプレッション
- 掲載日/2019年07月17日【試乗インプレッション】
- 取材・写真・文/森下光紹
スクランブラー1100スペシャルの特徴
常に身近な存在でいてくれる
頼れる相棒だ
2015年に発売されたスクランブラーは、1960年台に存在した先代の持つデザインソースとコンセプトを踏襲したモデルとして登場した。それは、ガソリンタンクのデザインやエンブレムも当然のことながら、本来のバイクが持つグローバルな楽しさを追求するという意味も重要視され、それが現代のライダーにも受け入れられたと言えよう。
スクランブルとは、混ぜ合わせるという意味である。現代のバイクは様々なカテゴリーに特価した性能を持つモデルが多く、特にドゥカティは、そんなストイックなモデルを追求し続けるメーカーとして常にトップであり続けることは誰の目にもあきらかだ。つまり、ある意味スクランブラーというカテゴリーにおいても、その徹底した企業ポリシーは失われていないのだと思う。「カテゴリーにとらわれないという特化したカテゴリー」とでも言うべきか。それがドゥカティらしさではないだろうか。
イタリア人の求める「粋」という考え方。たとえば、スクーターにおいては、深く腰掛けるシッティングポジションを嫌うのがイタリアンで、それはスーツ姿や女性ならばロングスカートでのライディングでも乗り降りしやすさを求めるからである。エスプレッソをスタンドで粋に飲み干すのを好む。それと同じ感覚でサラリと乗りこなすのが彼らの粋なのだ。そして、スーパースポーツに跨るのなら当然レーシングウェアを着込む。明確なコンセプトでホビーと向き合うのがイタリアンスタイルである。
では、スクランブラーはどうだろう。これは、カテゴリーにこだわらないバイクというのがコンセプト。自由に遊ぶバイクである。だからオンでもオフでもない。これをベースに何をやってもかまわない。ファニーな感覚で乗るためのバイクなのだ。だからドカティは、このスクランブラーというモデルに3タイプのエンジンを乗せ、様々なスタイル提案をするために、豊富なラインナップを設定しているのだろう。ユーザーが自由に遊ぶためのバイク。それがスクランブラーなのだから。
今回テストライドしたモデルは、最大排気量のエンジンが搭載されたスクランブラー1100スペシャルである。ベースモデルはスクランブラー1100であり基本的なシルエットは同じながら、ホイールにトラディショナルなスポークタイプを選び、高級なダブルシートやハンドルバーも低めのアングルとされているのが大きな特徴である。
スタイルの印象は落ち着いた雰囲気。やはりスポークホイールはクラシカルな印象を増加させ、前後のサイズはフロントに18インチ、リアは17インチとして、ブロックが大きいややオフ系のピレリタイヤが標準装備されている。
スクランブラー1100スペシャルの試乗インプレッション
自由な発想で気軽に乗るのが
スクランブラー最大の魅力
スクランブラー1100スペシャルのハンドルバーは、肩幅よりもやや広く低めのポジションを生み出すモタードスタイルとなり、バーエンドはやや開き気味という設定。このあたりもややモタード系を感じる部分でもあるが、普段の街乗りやツーリングに使用することを考えると、もう少し手前に絞られた形状のほうが乗りやすいのではないだろうか。
シートの高さは810mmだが高級なデザインのシートはやや幅が広く、身長172cmの筆者の足は、かかとがやや浮き気味となる。ライディングポジションはほんの少し前傾姿勢で、街乗りにおいてのバイクの取り回しは抜群だから、気軽に乗れるという点で最高だ。ただし、共通フレームゆえの弱点で、ハンドルの切れ角はオフロードも走れるバイクとしては少ないので、Uターン時などは注意が必要である。
エンジンは、軽いブリッピングでもレスポンスよく反応するドゥカティらしいものだが、電子スロットル特有のクセを身体が覚えるまでは、ほんの少し発進に気を使うことがあった。と言うのは、まずスロットルのフリー状態から開け始めまでの遊び。いわゆるアナログ系の遊びの先に、エンジン回転が上がり始める前の電気的な遊び部分があるために、そのキャンセル分を身体で覚える必要があるのだ。
走行モードは、アドベンチャー・ジャーニー・シティの3種類から選ぶことができ、アドベンチャーが最もハイレスポンスとなるが、扱いにくいものではない。ただし、街を低い速度域のままコンスタントスロットルで走り続けたり、雨天時の走行には、やはりシティーポジションを選ぶべきだろう。スムーズで緩やかなアクセルレスポンスは、安全ライディングへの貢献度が高い。しかしアクセルを開ければ、猛然と加速するのは当然で、たとえシティーポジションであっても強烈な加速感はスポイルされていない。しかもトラクションコントロールで制御されるエンジンなので、精神的な安心感は絶大である。電子スロットルの扱いに慣れてくれば、アドベンチャーポジションでのリニアな感触がドゥカティらしいハイレスポンスを楽しめて俄然心地良くなる。やはりフライホイールが軽くショートストロークのエンジンは、ドゥカティならではの感触だった。
前輪に18インチホイールを採用したハンドリングの印象は、ごく落ち着いたもので、低い速度でのタイトターンではセルフステアのレスポンスが穏やかである。排気量の割には軽い車重もあってUターンなども得意分野だが、前出した最大ハンドル切れ角がやや浅めであることが少し残念ではあった。市街地での走行では、この穏やかなハンドリングが有利に働いて、縦横無尽に走り回れる。実に乗りやすいバイクである。
スピードを上げると、心地よいエキゾーストサウンドが耳に届く。借用したバイクは、オプション設定のテルミニォーニサイレンサーがフルエキゾーストで装着されていたので、その乾いたサウンドは最高だった。エキゾーストパイプのエンドにはサーボモーターで駆動する可変バルブが装備されていてアイドリング時の排気音を巧みに抑える配慮がされている。もちろんアクセルに連動しているので、加速の度合いによってリニアに反応することは当然。目立たない部分でバイクの個性を演出するテクノロジーは、さすがに現代のモデルである。
街を出て高速道路を巡航すると、僅かな前傾ポジションが生きてくる。ネイキッドモデルゆえの風圧も、法定速度内ならさほど気にならず、中間域のアクセルレスポンスも優秀な大排気量エンジンは、余裕のクルージングであることは言うまでもない。ちなみに6速ギヤのローデッドラインは時速70キロほどだったから、市街地での出番はほぼない。
ワインディングロードでの走りは、街中走行で優秀だった穏やかなハンドリングがそのまま安心感を演出していて扱いやすい。リーンウィズスタイルのまま、かなりの速度域まで自由にコーナリングを楽しめるのは、意外にも最近のスポーツバイクでは珍しいことなのである。中速域のトルクがモリモリしているエンジンゆえに、各ギヤの守備範囲もけっこう広くてあまり頻繁なギヤチェンジも必要ない。そんなズボラなライディングができるのは、ロングツーリングにおいてもアドバンテージが高いと言える。
普段使いに都合の良いスクランブラー。その性能は、乗りやすさだけではなく、降りやすさにもあると思う。アップライトなポジションでスリムなスタイルゆえに、高めなシート高の割には気軽に降りられるというのも大きな性能のひとつになる。見知らぬ場所に出かけて気軽に降りられるのはツーリングバイクの大切なファクターだ。そして、どこに置いても風景に違和感を生じないこと。これもベーシックバイクに求められる魅力である。
スクランブラー1100スペシャルは、街の中にいても草原や山がバックでも、絵になるシルエットでデザインされているし、その乗り味も汎用性の高いものだった。ズボラなライディングも可能で、欲しいときには強烈な加速をするエンジン。ハンドリングは常に穏やかで、サスペンションは柔らかめな設定だが、高級なフルアジャスタブルなので、ライダーの好みにセッティングを変更できる。これは何でもアリのスクランブラーとしては、やはり究極の姿なのかもしれない。
自由な発想で気軽に乗るのがスクランブラー最大の魅力。少し無精髭でもはやして、ジェットヘルメットにお気に入りのアイウエアやジーンズ。足元のブーツは、バイクを降りて歩くことも考慮したワークブーツ系が良さそうだ。そして、荷物はあまり持たずに気軽に出かける。目的地は自分にとってのお気に入りならどこでもかまわない。そんなスタイルで楽しむバイクである。
スクランブラー1100スペシャルの詳細写真
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