「Ducati Panigale V4S(パニガーレ V4S)試乗記」誰もが楽しめる214馬力にリボーン
- 掲載日/2020年05月07日【試乗インプレッション】
- 取材・文・写真/淺倉 恵介
ドゥカティの旗艦モデルがリニューアル
短いスパンでモデルチェンジした理由とは?
ドゥカティのフラッグシップ、パニガーレV4S。初代モデルのデビューは2018年、それからわずか1年後、2019年のEICMAで早くも新型が発表された。
パニガーレV4シリーズには、よりレーシーなモデルとしてV4Rが存在するが、こちらは市販車を改造して争う世界最速のレースであるSBK(世界スーパーバイク選手権)のホモロゲーションモデルという意味合いが強い。V4RはSBKのデビューイヤーとなった2019年シーズン開幕から11連勝を記録するという圧倒的な速さを見せつけた。新型V4Sは、そのV4Rで培ったテクノロジーが惜しみなく投入されており、驚愕のパフォーマンスを備えるスーパースポーツの頂点とも呼ぶべきマシンなのだ。
だが、新しいV4Sは速いだけのマシンではない。これまで以上の速さに加え、ストリートでの使い勝手までもが高められているという。ここでは、新型パニガーレV4Sをストリートに持ち出し、その進化の度合いを探ってみる。
パニガーレ V4Sの特徴
目を惹くのはウイングレットの装備
だが、車体の進化に要注目
外観上で先代モデルとの違いは、サイドカウルのエアダクトの形状がリファインされていること、そしてエポックと言えるのがウイングレットの装備だ。ドゥカティはバイクレースの世界最高峰MotoGPのトップコンテンダー。先進的なマシン造り、特にエアロダイナミクスの分野では他メーカーの一歩も二歩も先を進んでいる。MotoGPマシンでのウイングレット装備について、その先鞭をつけたのはドゥカティだ。
排気量1,103cc、シリンダー挟み角90度のV型4気筒エンジンは、214馬力の最高出力を含め、スペック上で数値面の変更はないが、各部の見直しで低中回転域のトルクとパワーが向上。さらに煮詰められた進化電子制御との組み合わせで、日常使用での扱いやすさが高められている。
そして、最も大きく手が加えられたのが車体。パニガーレV4系のフレームは完全なピポットレスで、エンジンに基部を持つフロントフレームがステアリングを支持している。そのフロントフレームの形状を変更し、剛性バランスを最適化。トップブリッジ位置を下げ、リアの車高を上げることで、より前下がりのディメンジョンを選択している。
パニガーレ V4Sの試乗インプレッション
スポーツライディングに振り切ったコンセプト
攻めてこそ活きる、攻めれば攻めるほど楽しい
走り出して、すぐ「コレはエラいバイクに乗ることになった……」と、狼狽した。前傾のキツいポジションは、前方を見るため顔を上げるだけで首がツラい。手首や腰への負担も相当なものだ。エンジンの低中速トルクが豊かなのは好ましいのだが、レスポンスが鋭いことの弊害でトルク変動が大きく、スロットル操作に気を遣わないとギクシャクしてしまう。エンジンからの熱で、内腿が猛烈に熱い。足つき性も悪く、一時停止が億劫だ。サイドスタンドをかける時、外す時にも苦労する。もっとも、自分が小柄で短足なことにも理由があるのだけれど……。平均身長があれば、取り回しにこれほど苦労はしないだろうが、先代モデル比で5mm上がったシート高が思った以上に影響しているようだ。これは、先代モデルとの比較になるのだが、ブレーキのコントロール性が上がっているのは有難かった。先代モデルのブレーキは強力極まりない上に制動力の立ち上がり方が急激で、ブレーキレバーを握った瞬間に前転するかと思うほどだった。それが、新型ではストッピングパワーはそのままに、初期のフィーリングがソフトになり、ブレーキのコントロール性が大きく向上しているのだ。だが、走らせるのがツラいことに変わりはない。
と、ここまで否定的な評価ばかりしているが、これは街中を走らせた時のこと。ドゥカティというメーカーは、とにかく思い切りがいい。スポーツバイクは、スポーツライディングに最適化して作られている。パニガーレV4Sだけでなく、歴代スーパーバイクで街乗りが快適に感じたマシンは一台もない。だが、走るステージを変えれば、その評価は一変する。まず、高速道路。加速が最高に気持ち良い。どのギヤ、どの回転数からスロットルを開けても、マシンは遅滞なく猛然と加速する。100km/hでの回転数は6速で6,000転、1万5,000回転も回るエンジンなのだから、いったいどれほどのスピードが出るのだろうかとワクワクする。ちなみに1速でも、100km/hで1万回転しか回っていない。ハンドリングも、軽快感と安定性のバランスが絶妙だ。レーンチェンジは素早く正確に決まるのだが、安定感は十分以上。法定速度の範囲内で、不安を感じるようなことは一切ない。あくまで「比較すれば」という話になるのだが、先代モデルは安定性が強かったといえるかもしれない。それほど、新型の走りは軽快だ。車体姿勢の見直しが効いている部分かもしれない。自然と上半身を伏せるポジションなので、ウインドプロテクションも良好だ。ポジションの過激さを考えなければ、高速ツアラーとして高い可能性を秘めているようにも感じた。
そして、最高!と言う他ないのがワインディングだ。コーナー進入時には強力でコントロール性抜群のブレーキがモノを言う。マシンを寝かせこむと、狙ったバンク角にピタリと決まる。ハンドリングは極めてニュートラルで、想定したラインをキレイにトレースする。極め付けは、コーナー脱出時の気持ち良さ!スロットルを開けると、リアタイヤがガッシリと路面をくわえ込み、マシンをグイグイと前に進めてくれる。その瞬間の「今、トラクションがかかっている」という感覚が素晴らしい。驚くべきは、ワインディングで怖さを一切感じなかったことだ。考えてみてほしい、パニガーレV4Sは最高出力200馬力を超えるモンスターなのだ。当然、パワーは凄まじく、これまで経験したことのないような加速をするし、マシンが寝ているうちにスロットルを開けるのはタイヤが滑る恐怖との戦いになる。だが走っている時は、ただただ楽しく、次のコーナーをどう抜けようか、と考えているだけだったのだ。リッターバイク、それもこれほどの高性能マシンで、これほど気楽にワインディングを楽しめるバイクを他に知らない。トラクションコントロールなどのサポートデバイスの存在が意識化にあったかもしれないが、それ以上に車体セッティングの見事さと、自然な動きでその存在を忘れさせる電子制御サスペンションの完成度に感服した。
加えて、パワーデリバリーの優秀さにも触れておきたい。パワフルであることは言うまでもないが、そのパワーがとにかく扱いやすい。トルクバンドが恐ろしく広く、ありあまる力を引き出すのが容易だ。ためしに、ギヤが6速のまま低速コーナーを走ってみた。クリッピングポイントでのエンジン回転数は1,500回転ほど、そこからスロットルを全開にしたところ、一瞬反応が遅れただけでスムーズに加速してしまったのだ。ワインディングであれば3速あたりをホールドしておけば、オートマ感覚で走行して十分なスピードが得られる。エキスパートならもちろん、ライディングスキルに自信がない人でもマシンを速く走らせることができる。これほどフレンドリーな200馬力超のマシンが、これまで存在しただろうか?
ちなみに、今回の試乗は一般公道オンリーで行ったため、ライディングモードはストリートに設定して行った。パニガーレV4Sのライディングモードはレース、スポーツ、ストリートの3タイプが選択可能。ストリートモードは、他のモードに比べレスポンスが穏やかな設定となるが、最高出力は214馬力のままだ。また、自分が小柄で体重も軽いため、電子制御サスペンションの前後ダンパーも弱めに設定してみたところ、おおいに効果を感じられた。サスペンションに硬さを感じたら、試してみてもらいたい。ライディングモードも、サスペンションのセッティングも、ハンドルスイッチの操作だけで手軽に変更できるのだから。超速であることは、現代のスーパーバイクとして当たり前かもしれない。だからこそ、パニガーレV4Sの持つ「誰もが楽しめる懐の深さ」が際立つ。スーパーバイクは憧れや、所有欲を満たすだけのために手に入れるものではなく、走りを楽しむべきものだ。そう感じさせてくれるマシンなのだ。
パニガーレ V4Sの詳細写真
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