ドゥカティ ハイパーモタード796
- 掲載日/2010年03月16日【試乗インプレッション】
- 取材協力/Ducati Japan 構成/VIRGIN DUCATI.com 編集部
新フレーム+新設計エンジンで誕生
スケールダウンではない本気のミドルモタード
時間の流れは早いもので、ドゥカティの新カテゴリを切り拓いたハイパーモタードシリーズが、ミラノショーで盛大に発表されてからすでに5年の月日が経つ。当時驚きを持って迎えられたドゥカティ流モタードモデルも、いまや欠かせないラインナップとなった印象がある。今回紹介する「ハイパーモタード796」は、久々に同シリーズに加わったブランニューモデル。車名やスタイルで見てしまうと「排気量を落としただけ?」と思ってしまうかも知れないが、より幅広いライダーが楽しめるエントリーモデルと位置づけながらも、単なるスケールダウンバージョンとしないのはさすがドゥカティ。コンセプトやスタイリングは兄弟モデルと同様でも、鋳造パーツを組み合わせた専用設計フレームと新型エンジンを採用。特にエンジンは803ccの排気量を持つ全く新しいもので、今後の中間排気量クラスの中心となりそうな存在感すら漂わせている。これまでのハイパーモタードとは違ったテーマを持つニューモデルがどのような走りで楽しませてくれるのか。試乗インプレッションを通して確認してみよう。
ハイパーモタード796の特徴
スタイルは同じでも
中身はブランニュー
ハイパーモタードシリーズと聞いて真っ先に思い出すのは、ハンドガードと一体化した折り畳み式ミラーに、フロントフェンダーと一体化したライトカウル、そしてシート下から飛び出すデュアルマフラーと、その上に位置するエッジの効いたストップランプだが、そのスタイルはハイパーモタード796にもしっかりと受け継がれている。これまでのハイパーモタード1100と比較すると、排気量にあわせてフロントフォークが43φになっているほか、デジタルメーターがストリートファイターなどにも採用されている新タイプのものへと変更されているのが大きな差異だ。2010年からのハイパーモタードシリーズに順次採用されるこのメーターは、DDA(ドゥカティ・データ・アナライザー)に対応しており、別売りの計測ユニットを取り付けることで走行中の詳細なデータを取得することが可能。アクセル開度や車速、エンジン回転数などの詳細なデータは、ストイックに走りを追求したいライダーにとって有用なはずだ。
スタイル上の差は大きくないが、中身はハイパーモタード1100とは全く異なる。ドゥカティの象徴とも言えるトレリスフレームは、ハイパーモタード796のために専用設計が行われたもので、鋳造パーツを組み合わせることで生産の安定と軽量化を実現しながら、剛性を維持しているのが特徴だ。これに組み合わされる足回りは、フロントにマルゾッキ製倒立フォークとブレンボ製ラジアルマウントキャリパー、リアにザックス製アジャスタブルサスペンションユニットとブレンボ製2ポットキャリパー。ホイールはエンケイ製の5本スポークホイールが採用されており、いずれもハイパーモタードシリーズで共通するパッケージングとなっている。
ハイパーモタード796最大の特徴とも言える新設計エンジンは、スーパーバイクなどのエンジンに用いられるヴァキュラルダイキャスト製法を使用した新造クランクケースを使用することで、より排気量の少ないモンスター696のエンジンより1.9kgという大幅な軽量化を実現。パワーも81HP/8,000rpmと十分な数値をマークしている。また、湿式クラッチは標準でスリッパークラッチとし、操縦安定性の向上を図っているのも特徴だ。外見はこれまで同様ハイパーモタードらしいものだが、中身はこのモデルならではの新要素に満ちていて、シリーズ構成から見ると末弟とは言え、詰め込まれたパフォーマンスは決して兄貴分に勝るとも劣らない。むしろ数値的なスペックや湿式クラッチによるメンテナンス頻度の軽減を考えると、日常的に使用するならこちらに分があるだろう。よりエクストリームな性能を求めるなら大排気量モデルを選ぶべきだろうが、そういった過激すぎる要素ではなく、もっと身近にドゥカティを楽しみたいライダーにとって、ハイパーモタード796は確かなパフォーマンスと満足感を伝えてくれる1台となっている。
ハイパーモタード796の試乗インプレッション
ドゥカティの楽しさが身近になる
扱い易いパフォーマンス
「乗り易くて、気持ち良い」と書いてしまうと余りにも単純すぎるかもしれないが、ハイパーモタード796こそはその二つの言葉がピッタリと当てはまるマシンだ。このブランニューモデルに対して、ハイパーモタード1100のような手強さを想像しているなら、きっと肩透かしを食らってしまうはず。20mm低くなったシート高と、おおよそ20kg軽量化された車体(なんとモンスター400より軽い!)は、取り回しも簡単で、何より足着き性が大きく改善されている。身長174cmの筆者でも足先がきちんと接地するため、走り始める前から緊張を強いられることは無い。これに加えて、新たに搭載された新型エンジンの出来映えが出色だ。2000回転以下の低速はやや苦手とするものの、常用する3000回転からの吹け上がりは、ドゥカティらしいパルス感を発揮しながらもマイルドかつスムーズ。このソフトな感触が比較的激しいスロットルワークを行った際も維持されるため、スポーティなライディングを楽しむ際にも不安が少なく、ドゥカティにあまり慣れていないライダーでも美味しいところを楽しめてしまう。モンスターで言えば696よりトルクフルで、1100よりも角が取れて取っ付きが良い、といった印象だ。よくあるワインディング程度ならタコメーターと睨めっこする必要もなく、それこそ新型Lツインが発生するトルクを感じながら流すだけでも、“それなりのペース”で走れてしまうのは、兄貴分のハイパーモタード1100には無い美点だろう。
ハイパーモタード796の扱い易さは、操作系の軽さによるところも大きい。近年のドゥカティは一昔前と比べてレバーやスロットルの操作が軽くなってきているが、このモデルはそれがさらに顕著だ。特にクラッチの軽さは驚異的で、人差し指一本でも十分に操作が可能。ドゥカティカスタムの定番として、クラッチ操作をやり易くするためにレリーズシリンダーを交換するユーザーが多いが、ハイパーモタード796ならその必要は無いはず。シングルワイヤーとなったスロットルの軽さも忘れてはならないが、それ以上にこの「羽毛のように軽いクラッチ」は、一度体験して欲しいポイントだ。
総じて欠点が見えず、親しみ易いこのニューモデルに不満点を上げるとすれば、サスペンションの設定と航続距離の問題だろうか。作動性自体は良好なのだが、ドゥカティらしからぬ緩めの速度で流すには少々硬いようだ。とは言え、ライダーが積極的に身体を動かし荷重を掛ければ高い旋回性を発揮してくれるから、この感触は「乗り易いからといってサボらないように」というハイパーモタード796からの忠告かもしれない。航続距離についてはタンクの容量を考えれば仕方がないところだが、実燃費でリッターあたり18km前後、高速で20kmほどだったので、ワンタンク200km以下となる。今回は150kmを走行した時点で燃料警告灯が点灯したことを書き添えておく。ただ、ハイパーモタードシリーズはロングクルージングを楽しむためのモデルでは無いので、使い方によってはあまり気にならないだろう。乗るならばドゥカティがこのモデルのために用意したフレーズ、「ハイパーに行こうぜ!」という言葉通り、扱い易さを活かして、アグレッシブにスポーツライディングを楽しみたい。ハイパーモタード796なら、そういった「ドゥカティで走る楽しみ」を、幅広いレベルのライダーが享受できるはずだ。
ハイパーモタード796の詳細写真
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