第3回「個々のパーツに現れた10,000kmのストレスは?」
- 掲載日/2011年02月23日【1098Sエンジン完全分解】
- 文/Keita Kasai 写真/Yasushi Takakura 取材協力/パワーハウスモータークラブ
いよいよエンジン分解
パワーハウスモータークラブの協力を得て、10,000kmを走行したドゥカティ1098Sの水冷エンジン、テスタストレッタエボルツィオーネを分解、各部パーツの疲労度などを調べた。オイルとオイルフィルター以外、エンジン周辺のパーツは一切交換せずに10,000kmを走行したものだ。実際に走行させているときはとくに大きな問題を抱えているようには感じられなかったが、分解してみて初めて明らかになることもあるだろう。
しかし今回のエンジン分解では、とくに問題となるパーツは見当たらなかった。それどころか10,000km程度の走行では、磨耗や消耗もほとんど見られず、ドゥカティ1098の耐久性の高さを証明するかたちとなった。
その結果を見るため、今回はエンジン各部にクローズアップし、それぞれの詳細について解説していこう。
【01】カムホルダー
シリンダーヘッドと一体のカムホルダーを右写真のように拡大して見ると、ジャーナル部分にカムが押し付けられて出来た摺動跡がある。中野さんによれば「10,000km走ったエンジンとしてはまったく問題なし。1098は実に良く出来ている」とのこと。ただしこの方式ではジャーナルの摩耗が進んだ場合、シリンダーヘッドそのものの交換が必要になる。
【02】ピストン
ボア104mm×ストローク64.7mmの超オーバースクエアに加え、高回転化のためにスカートも短いが、ピストンの首振りによるトップリングより上の当たり跡もない。スカートにはうっすらと摺動跡が残るが、問題のないレベル。圧力を直接受けるピストンピンとの当たり面にも筋が残るが、オイルジェットによる潤滑もあり、極めて耐久性は高い。材質と加工精度の進歩だ。「以前のモデルはオーバーホール時にピンを叩かないと抜けませんでしたが、1098は押すだけで簡単に抜ける。良い潤滑をされていた証拠です」と中野さん。
【03】バルブ
左はインテーク、右はエキゾーストバルブ。ちなみにバルブは一般的に2~3種類の材質を接合して作られる。クラブマン1098Sの場合、エキゾースト側のガイドにわずかにガタが出ていた。
【04】ロッカーアーム
弱点と言われたスリッパー面にも目立った傷はない。新設計のヘッドでストレスが小さくなった事も理由のひとつ。左写真のクローズ側の造形は中野さん曰く「芸術的」。バルブクリアランスを規定ぎりぎりまで詰めると、熱膨張で当たりがきつくなる。またレイアウト上、熱が逃げにくいリヤバンクの排気側はフロントバンクより0.02mmほどクリアランスを大きくした方が良いだろう。
【05】カムシャフト
新設計されただけでなく、表面の硬度も上がっている。左写真のクローズ側の当たり面はやや表面が荒れているが、バルブクリアランスが小さめになってしまったために起こる症状。ただしこのレベルなら専門の業者による研磨で修正可能。プーリーのある右側のカムのジャーナルやカムホルダーは、ベルトを張りすぎると傷が入ってしまう。これが「張りすぎない」理由。
【06】シフトフォーク
シフトフォークの先端には硬度を高めるためにメッキが施されており、過去の4バルブより耐久性が高い。右写真のように、ミッションと当たる先端には摺動によってできた傷があるが「サーキット走行も含めて10,000kmでこの程度の摩耗なら、数万km走る耐久性はあるはず」とのこと。走行距離ももちろんだが、シフト操作の上手さによって摩耗の度合いが大きく異なる。
【07】クランクケース&ベアリング
ベアリングのサイズが大きくなり、精度も高まったケースにはグリメカの刻印が。ベアリングのハウジング周辺には強度を上げるためのリブが増え、クラックや寸法の狂いを防止。
【08】シリンダー
アルミシリンダーにニカジル(潤滑性の高いニッケルとダイヤモンドの次に固いカーバイドシリコンの複合)メッキが施される。ホーニング跡が50,000km以上走っても残っているという優秀なもの。
【09】シリンダーヘッド&燃焼室
以前のポートは砂型の跡が残っていたり、その除去のために手で研磨されていたりしたが、加工技術の向上で鋳型から取り出した時点で仕上げは良い。ポートのざらつきはガソリンの霧化を促すので、1098なら研磨する必要もないという。エキゾーストのバルブステムのガタはガイドの打ち替えで対応。ガイドはリン青銅材で作るのだが、その成分はメーカーによって異なり、中野さんは日立金属製を使う。現在はステムシールがフッ素系のゴム製になったのでオイル下がりも起こりにくく、化学合成油を使っても変形しにくい。素材の変化も大きな進歩だ。バルブシートの幅が狭く、熱を逃がしやすいのもドゥカティのヘッドの美点。シートの当たり面の幅は0.4mmに設定。この1098Sは擦り合わせで充分なレベル。
【10】コネクティングロッド
新設計のコンロッド。本体の強度が増し、従来と違い表面を鏡面処理して応力の集中を防ぐ。また写真右上の小端部のメタルの幅が大きくなり、オイル溝が深く、幅も広がったため、ピストン裏にオイルを噴射するジェットと合わせて潤滑能力が高まってピンとの摩擦も、ひいては摩耗も少ない。ピストンピンにも問題になるような摩耗はなかった。左下の写真で取り外した大端部のメタルには10,000kmなりの摩耗が見られるが、ここはコンロッドボルトと同様にオーバーホール時には必ず交換する部分。まだ限界までは摩耗していなかった。
【11】クランクシャフト
1098で大きく改良されたクランク(これについては次回以降に詳細を解説する)。伝統的にドゥカティのクランクは強度や精度が高く、歪むこともない。ダイナミックバランスを確認しても狂いはほとんどないという。
【12】カムシャフトプーリー
ベルトとの当たり面に点のように傷が入っているが、タイミングが狂うような摩耗ではない。999では鉄のプーリーだったが、1098は特殊な樹脂で、膨張率が低いので張力の変化が少ない。
【13】シフトドラム
軽量化のために肉抜きされる。シフトドッグ(左)の先端の摩耗は1098では許容範囲の下限というレベル。ただしシフト時のショックは大きかったはず、との診断。
【14】トランスミッション
ミッションのレシオは999 と同じだが、ギヤの軽量化や表面処理など、異なったパーツを使っている。10,000kmの走行では、かすかにギヤの歯に当たり跡が残っている程度。
【15】クラッチ
エンジンをコンパクトにするため、スーパーバイクでは乾式クラッチがドゥカティの伝統。1098ではフリクションプレートが7枚から8枚に増やされ、容量がアップされた。クラッチプレートを薄くして全体の厚みは変えない。クラッチハウジングはインナー、アウターともにクラッチ板との当たり面が摩耗していた。「ニュートラルの状態でクラッチの打音がし始めたらディスクやインナーとアウターのハウジングは交換すべき。一概には言えませんが、10,000~30,000km、または摩耗によるプレートの交換が2回目になったらハウジングも摩耗が進んでいるはず」と中野さんは言う。右上の写真のクランクケース側のベアリングにガタはないものの、熱でスチール部分が焼けて金色になっている。ケースを割ってのオーバーホール時に交換する。
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