レースシーンを席巻する技術に裏打ちされた
幅広いパーツラインナップを知って欲しい
マジカルレーシング 代表
蛭田 貢 氏
同メーカーの代表にしてボディワークデザイナー。また現役のレーサーとして業界では知られた存在で、岡山国際サーキットのモトレボや筑波サーキットのテイスト・オブ・ツクバ、そして鈴鹿サーキットなどのレースにも参戦中。自らライディングしその感性を製品にフィードバックする、文字どおり“走るデザイナー”だ。
この moto veloce (モトベローチェ)は、モーターサイクル ボディパーツメーカーであるマジカルレーシングにおける輸入車カテゴリー専門のパーツブランドとして2000年に誕生した。まずはこのマジカルレーシングの歴史についてご紹介しよう。
マジカルレーシングは 1980年代前半、現代表の蛭田 貢氏が乗っていたレース用バイクのボディパーツを作り出したことに始まる。最初に手がけたのはフロントフェンダーで、その当時としては洗練されたシルエットと機能性を有しており、目にしたレース仲間から「分けて欲しい」という要望が生まれたことから量産、そして販売へ。その後、蛭田氏はサーキットを離れて造形に没頭するようになり、数々のレーシングボディパーツやストリートボディパーツを手がけ、ボディパーツメーカー マジカルレーシングの基盤を築いていった。
1980年代半ばに入ると、改造されたストリートマシンで争うレース TT クラスの人気が急上昇。このカテゴリーにおいても、前衛的なシルエットとライダーが求める機能性を重視したカウリングやシートを開発。そのクオリティの高さは、多くのサテライトレーシングチームの支持を受けるほどだった。有名なところでは、1989年の全日本 TT-F3 クラスにて最終戦までチャンピオン争いを展開した青木宣篤選手を擁するチームカップヌードルの NSR250R で、排気量の少なさを補うほどの効果を生んだボディパーツに、関係者は驚きを隠せなかった。その翌年、TT-F1 クラスではマジカルレーシングがサポートするヤマモトレーシング VFR750R がチャンピオンに輝き、さらに1996年には全日本 250cc クラスに同ショップのオリジナルカウルを装着したプライベーターの TZ250 が並み居るワークマシンの最高速を超えるなど、あらゆる話題をさらった。
「こうした数々の結果を生み出せたことで、“マジカルレーシングのボディパーツは高い機能性を有している”ということを証明できたのです」
蛭田氏は当時を振り返りながら語る。またここで得たノウハウが、レーサーレプリカやネイキッド用パーツにフィードバックされ、レースシーンのみならず一般のモーターサイクルシーンにもマジカルレーシングのボディパーツが広まっていった。
しかし、2000年を迎えた頃からマジカルレーシングは大きな壁にぶつかる。それは、1000cc という大排気量ベースでのレースが開催されるようになったことに起因する。この排気量アップやインジェクション化、点火系のデジタル化などから、それまで到達するのが容易ではなかった時速 280 キロの世界が一般的な数値となってき、マジカルレーシングが培ってきた経験を超えた世界への挑戦を強いられることに。蛭田氏は改めてボディワークを研究し直し、“空気の壁”の中でマシンをどう安定させ、いかにバンクさせて適切にコーナリングに導くのかということを追求し、新境地を切り開いた。それが、カーボンなどの新素材やそれら製品のベースとなるマスター型製作構造、そして製作における新しい技術である。
そしてこれらの技術が、輸入バイクにも取り入れられることとなる。2012年 全日本ロードレース選手権に参戦する酒井大作選手の BMW S1000RR のボディパーツを手がけるなど、ついに日本の枠を飛び出していこうとしているのだ。「このノウハウを、ストリート系輸入バイク向けに生かしてみよう」と、モトベローチェ誕生へとつながっていった。
「極限の速度下における“空気の壁”のコントロールは、国内、海外問わずモーターサイクルメーカーにとっての大命題です。僕らは車両メーカーにはできないデザイン性と機能性を有したボディパーツを手がけるメーカーとして、これからもクオリティの高い製品を手がけていきたい」
熱く語る蛭田氏の豊富な知識がすべて詰め込まれたモトベローチェのラインナップ。そのパーツ開発はスーパースポーツにとどまらず、ネイキッドやマッスル系モデルも視野に捉えており、幅広い選択肢を有していることも魅力的だ。それでいて“より楽しく走るため”の機能性を有しているのだから、すべてが申し分ない。
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【1】 蛭田氏がプロデュースし、自らライディングする RG500γ は、モトレボやテイストに参戦。サーキットで数少なくなってきた2ストロークサウンドを響かせている。そして、そのカウリングやシートなどのボディパーツだけでなく、フレームやスイングアームの補強など、細部までカーボンを使用し、新しいアイディアも同時に採用。机上の空論ではなく、現場からデータを採取するまさに“走る実験室”と言える。
【2】 大阪・柏原市に位置するマジカルレーシング。静かなたたずまいの中で高性能ボディパーツが生み出される。そのロゴは数々のチャンピオンマシンや活躍したマシンにステッカーとしてさりげなく存在する。そこには速く走るための安心感とノウハウが隠れている。
【3】 2012年全日本ロードレース選手権・JSB クラスに参戦している BMW S1000RR のボディパーツはすべてモトベローチェ・マジカルレーシング製。ライダーは酒井 大作選手で、開幕戦ではワークスに食い込む大活躍をみせた。また、鈴鹿8時間耐久レースにもエントリー。レースをかきまわしてくれることだろう。
【4】 製品は細部にわたって入念にチェックされ、そして出荷される。
【5】 製品の出来を左右するマスターデザインは、慎重に研磨され面出しされる。その作業は目と指でわずかな歪みを感じ取り、修正していくのだ。
【6】 型から剥離された製品のバリを慎重に削り落とし仕上げていく。簡単そうに見えるが、それだけ熟練した腕がないとこなせない作業なのだ。
【7】 無数に並べられた製品型。すぐに生産できるようにキチンとメンテ、管理されている。
【8】 ずらりと並べられたカーボントリムスクリーン。多様な車種に対応したランナップがされている。スクリーンもボディパーツの重要なエレメントだけに、マジカルレーシングでは力を入れている。
ツウ好みの一台に仕上がったカスタム ディアベル
見た目を裏切る軽快なスポーツ走行性能が魅力
現在のドゥカティのラインナップにおいて、高い人気を博するモデルのひとつがこのディアベルだ。純正モデルとして、カーボンボディ仕様の Diavel Carbon (ディアベル カーボン) があるが、マジカルレーシング、いやモトベローチェとしてカーボン製のボディパーツを開発し、生み出されたすべてを換装したのがこの一台だ。ぱっと見た感じだと大きく変わっていないように見えるが、ノーマルのそれとは比べものにならないノウハウが細部に詰め込まれている。
やはり注目すべきは機能面だ。代表である蛭田氏自ら開発の指揮を執り、「クルーザーとして生み出されたディアベルらしさを生かしつつ、ライダーとして求めるべき部分を引き出すことにこだわった」と言う。中でも注目したいのが、前後に配された BST カーボンホイールだ。開発と実験を何度も重ね、ようやく実走テストにおいて納得できる仕上がりとなったこの製品、純正アルミホイールと重量を比較すると、前後ともに2キロ強の軽量化につながっているのだという。「見た目を裏切る軽快さが魅力的ですよ」と蛭田氏は笑う。
クルーザーでありながらスポーツ走行も得意分野とするディアベル。そのパフォーマンスとともに所有感までも高く引き上げたこの“ツウ好み”のカスタムモデルは、世の同モデルオーナーの視線を引きつけていることだろう。
カーボンホイールの重量は、フロント (3.5×17) = 3.2キロ、リア (8.5×17) = 4.55キロ。純正アルミホイールが、フロント (3.5×17) = 5.65キロ、リア (8.0×17) = 6.85キロだから、前後ともに2キロ強の軽量化につながる。