ドゥカティ スポーツクラシックスポーツ1000S
- 掲載日/2009年07月15日【試乗インプレッション】
- 取材協力/Ducati Japan 構成/VIRGIN DUCATI.com 編集部
1970年代をほうふつさせる
ノスタルジックなスポーツバイク
ここ数年、現代のバイクをベースに1960~70年代のスタイルを復活させる、いわゆる“ネオクラシック”と呼ばれるカテゴリが注目されている。中でもドゥカティはその先駆者とも言えるメーカーで、2000年に限定発売されたMH900eを皮切りに、1970年代の空気をまとったスポーツクラシックシリーズをデビューさせている。現在ラインナップされている「スポルト1000S」は、懐かしい形のロケットカウルを装備したスポーティな1台。限定モデルであったポールスマート1000LEをベースとしているが、こちらは二人乗りにも対応したモデルとなっている。ルックスはもちろんスポーツクラシックシリーズにふさわしいもので、まるでヒストリック・バイクのアルバムから飛び出してきたかような雰囲気。押し出しの強いカウルと低いクリップオンハンドル、左右2本出しの艶消しブラック塗装のマフラーなどで構成されるスタイルは、今見ても古さを感じさせず、むしろ個性的な印象さえ受けるほどだ。面白いことに、いくつかのディーラーで聞いた話を総合すると、スポルト1000Sは現在ラインナップされているモデルの中でも飛び切りスポーティなバイクに仕上がっているらしい。郷愁を誘うスタイルの中に秘められた走りのポテンシャルを、試乗を通して早速体感してみよう。
スポーツクラシックスポーツ1000Sの特徴
現代の技術で再構成された
こだわりのクラシックスタイル
一見するとクラシックバイクそのもののようなスポルト1000Sだが、エンジンをはじめとする構成パーツは最新の技術を投入されたものだ。お馴染みとなったトルクフルなデュアルスパークエンジンはマレリ製のフューエルインジェクションで制御されており、始動はサーボ付きのセルモーターで行われる。これは一度ボタンを押すとあとはエンジンがかかるまで自動でセルを回し続けてくれるという便利な機構だ。足回りはスイングアームこそクラシカルな形状となっているが、フロントはマルゾッキ製の倒立サスペンションを装着しており、リアのツインサスペンションはフルアジャスタブルタイプを採用。また、このバイクの雰囲気を演出するスポークホイールも、サイズ自体は現代のスポーツバイクの標準サイズとなっている。ライダーの郷愁を誘うスタイルが魅力のスポルト1000Sだが、中身は現代のバイクとして高い性能を与えられているのだ。
とは言え、ネオクラシックの旗手とも言える存在らしく、コダワリを感じる部分も多く見られる。特に目を引くのはタイヤで、スポーツクラシックシリーズのために17インチバージョンとして復刻した「ピレリ・ファントム」を装着。フロントブレーキは懐かしい雰囲気の片押しキャリパーを採用しており、機能パーツもクラシカルな印象だ。外装パーツではフロントフェンダーステーにパイプを使用しているほか、DUCATIのロゴも70年代のロゴをイメージしたものだ。そして、極めつけはメーターまわりだろう。往年のレーシングマシンのようにメーターのみをステーにマウントし、無駄を排した美しいコックピットを作り出している。メーターの文字盤も、昔のドゥカティで採用されていたベリア製メーターのテイストを模したものとなっており、非常に美しい仕上がりだ。現代のバイクとして必要な性能を保持しながら、可能な限りクラシックスタイルにこだわったスポルト1000Sは、乗って楽しいだけでなく、見るだけでも深い満足感を得られる稀有な1台となっている。
スポーツクラシックスポーツ1000Sの試乗インプレッション
レーシーなポジションで楽しむ
研ぎ澄まされたコーナリング性能
スポルト1000Sにまたがって最初に驚いたこと、それはポジションの前傾具合。率直に言ってしまうと、スーパーバイク1198Sよりもハードではないだろうか。ハンドルと膝の位置がほぼ同じ高さにある上にタンクが長いため、かなりの前傾を強いられる。スポーツ走行をする際には気合いの入る良いポジションだが、街乗りにはあまり向いていない。しかし、このバイクに“快適さ”を求めるのは無粋と言うもの。最近でこそスポーツバイクは乗り易さ重視となってきてはいるが、一昔前は快適さなど関係ないとばかりにスパルタンなモデルが溢れていた。特に1970年代のドゥカティなど、当時の記録を紐解けばハンドル位置は低くて当たり前と言うラインナップ。これは快適に街を流す乗り物ではなく、スポーツするための乗り物だと考えれば、至極納得のいくポジションだ。このスタイルなのにイマドキの快適仕様、ではむしろ格好がつかないだろう。
さて、頭の中をキッチリとスポーツ思考に切り換えて走り出してみると、このバイクの面白さがじわじわと身体に伝わってくる。定評あるデュアルスパークの空冷2バルブデスモドロミックエンジンは音、鼓動感とも満足がいくもので、パワーの出方も素直な印象。3000回転以下でも十分実用的なトルクを発生し、低速コーナーから高速ストレートまで心地良くドゥカティ・サウンドを響かせる。しかし、面白さの要素はこのパワーユニットより、むしろハンドリングに詰まっている。最近では抑えられているとは言え、元々ドゥカティはライダーがしっかりと荷重をかけて旋回することを重視したバイクだ。スポルト1000Sは明確にその傾向があるため、適当に流そうとしても思い通りには曲がってくれない。しかし、加速・減速・旋回をセオリーどおり丁寧にこなしていけば、目を見張るようなコーナリングを楽しませてくれる。レーシーなポジションがピタリと決まり、バイクがリーンしていく瞬間はまさに快感そのもの。それを比較的恐怖感の少ない速度域で味わえるのが、昨今のスーパースポーツとの明確な差だ。「峠を攻める」と言うと陳腐かもしれないが、そういうアグレッシブな気持ちにさせてくれるのは大きな魅力と言えるだろう。
そして、もうひとつ。古めかしいロケットカウルに身を伏せた時の気持ちよさにも言及しておきたい。丸いカウルで風を切り、低いハンドルに掴りながら身を伏せれば気分は往年のクラシックレーサー。テクニックを求めるスポーツ性能はもちろん、こういう「当時の雰囲気」を手軽に味わえてしまうのもこのバイクの良さ。きついと感じるポジションも、その気になってアクションを決めようとするとつい納得してしまう。もしかすると、そんな技術やスペックだけで語れない愉しさこそ、ライダーを惹きつける最大の要因かもしれない。
プロフェッショナル・コメント
今一番スパルタンなドゥカティ
熱いスポーツ性も求めるならイチオシです
「バイクでスポーツする」という視点から見ると、スポルト1000Sはかなり“熱い”バイクです。何しろポジションは1198Sよりもハードですし、トラクションコントロールをはじめとする「賢い装備」が何もついていません。だからこそ、素のままドゥカティを味わえるモデルでもあるんです。ライダーがきっちりと仕事をしなければ曲がらない、裏を返せば乗り手次第で素晴らしいスポーツ性能を発揮してくれます。少し前のドゥカティのような歯ごたえある乗り味を求めるなら、スポルト1000Sはイチオシですね。街乗りをはじめとする楽な部分を削ぎ落としたからこそできたこの濃密な味わいには、ドゥカティの面白さが凝縮されていますよ。(モトコルセ 店長 塙 政則さん)
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