ドゥカティ スーパーバイク1199パニガーレS
- 掲載日/2012年10月31日【試乗インプレッション】
- 取材協力/Ducati Japan 取材・写真・文/小松 男
レースシーンとは切っても切れない関係が続いていた
ドゥカティの歴史=スーパーバイクといっても過言ではない
851 からスタートしたドゥカティ・スーパーバイクモデルの歴史。1988年から開催された世界スーパーバイク選手権 (WSBK) に参戦するために作られた 851 は、ドゥカティ初となる水冷4バルブエンジンを搭載していた。1980年代は日本ブランドが4気筒で勢力を上げ、旧ベベル系エンジンや、その後のパンタエンジンなどでは、思うような成績を残せなかったことにドゥカティはもどかしさを持ち、ついに誕生させたスーパーバイクモデルが 851 だったのだ。1988、1989年こそ優勝を逃したドゥカティ、しかし 851 に改良を加えた 888 で、1990年からは3年連続でワールドチャンピオンを獲得。WSBK ではその後も常勝を続けることとなる。
ドゥカティのスーパーバイクモデルを語る上で、忘れてはならないのは 1994年に登場した 916 の存在だろう。bimota 創始者のひとりであり、奇才デザイナーと名高いマッシモ・タンブリーニの手により生み出されたモデルである。片持ちタイプのスイングアーム、シート下のサイレンサーなど、斬新的なデザインでドゥカティは性能だけではなく、美しさも兼ね備えたマシンであることを定着させたのだった。916 はデザインの大きな変更をせず、その後 996/998 と進化を遂げて 2002年まで続いた。
2003年に登場した 999 は、約8年もの間続いた 916 系とまったく違うパッケージングとなり世界中のファンを驚かせた。縦2灯とされたフェイスマスク、両持ちスイングアームなどを採用、当時デザインチーフを務めたピエール・テルブランチ渾身の作品だったのだが、2007年に後継となる 1098 に席を譲ることになる。
1098 のパッケージングは再び 916 系に近いものとなるが、中身は別物。テスタストレッタエボルツィオーネエンジンは、最高出力 160 馬力、最大トルク 12.5kgm を発揮。ビッグマイナーチェンジモデルとなる 1198 で成熟を遂げた。そして 2011年のミラノショーにて、満を持して次世代スーパーバイクモデル 1199 パニガーレが発表されたのだ。
スーパーバイク1199パニガーレSの特徴
ニュージェネレーションとなったスーパーバイクレプリカは
ドゥカティの定石を覆すパッケージングとなっていた
ついに日本へも上陸したパニガーレ。何を隠そうこれまでのドゥカティスーパーバイクモデルとは、かなり異なった作りとなっている。
まずエンジン。パンタ系をデチューンしたクアドロバルボーレ (4バルブの意) エンジン、バルブ挟み角を狭くし吸気効率を上げたり、燃焼室の形状を改良するなどヘッドまわりを中心に手を加えたテスタストレッタエンジン、そしてテスタストレッタエンジンをベースにさらに高効率化および高出力化を図ったテスタストレッタエボルツィオーネと続いてきたスーパーバイクのエンジンだが、1199 に搭載されたのは、まったくの新設計となるスーパークアドロエンジンだ。
スーパークアドロという名称はボア×ストローク比を極端なオーバースクエア型にしたことに由来し、そうすることでエンジン自体をコンパクトにでき、かつ低回転からトルクを持たせ、超高回転まで使えるようになっている。最大トルクは 13.5kgm、そしてツインエンジン最高値となる 195 馬力を発揮 (ともにイタリア本国仕様の数値)。他を圧倒するポテンシャルを備えた。ここまで刷新されたスーパークアドロエンジンだが、もちろんL型ツイン、デスモドロミック機構は健在だ。
そしてこのエンジンのもうひとつ大きな特徴といえば、エンジンそのものがフルストレスメンバーとなっていることだ。これまでのドゥカティではトラス構造のフレームが採用されてきており、アイデンティティともいえるものだったが、それを撤廃。エンジンをストレスメンバーとし、メインフレームの代わりに採用されたのが、大容量エアボックスを兼ねるモノコックフレーム。これがエンジン前部に接合し、フロント周りを支える機軸となる。エンジン後部にはスイングアームとシートフレームが伸びるという構造となっている。
これまでのドゥカティとまったく異なるパッケージとなった 1199 パニガーレ、はたしてその乗り味はどのようなものになっているのだろうか。
スーパーバイク1199パニガーレSの試乗インプレッション
眺めて良し、走らせて良し
“最新が最良”を物語る出来栄え
今回テストしたのは、上級装備を纏った 1199 パニガーレSだ。スタンダードとSの違いを列挙すると、
- ● DES (ドゥカティエレクトリックサスペンション)
- ● オーリンズ製フルアジャスタブルフォーク [マルゾッキ製フロントフォーク]& オーリンズ TTX リアショック [ザックス製リアショック]
- ● 調整式オーリンズ製ステアリングダンパー [非調整式ステアリングダンパー]
- ● フル LED ライトシステム [ハロゲンヘッドライト]
- ● マルケジーニ製鍛造アルミホイール
- ● カーボンフロントフェンダー
- ● エアロキット
等だ。スタンダード 209万円に対しSは 259万円と、50万円の価格差があるものの、1199 パニガーレのウリのひとつである電子制御式サスペンションや2輪量産車初となる LED ヘッドライトの採用などがあり、全体で考えても 50万円以上の装備が奢られていることは明白。予算の都合はあるとは思うが、できることならSを手に入れたい。1199 パニガーレSは一見するとコンパクトながら、跨るとスーパースポーツらしくシート高は高い。しかし車重そのものが非常に軽量な作りとなっているため、取り回しは驚くほど容易である。
イグニッションをオンにし、TFT 液晶を採用するメーターで各キャリブレーションが済むのを確認したら、いざエンジン点火だ。排気音は、厳しい日本の規制に合わせるためにサードマフラーを装着させただけあって、やや押さえ気味となっているが、それでもドゥカティらしくサウンドは大きめ。かえってエンジンから発せられる機械音が強調されてしまった感がある。これまでのハイエンドスーパーバイクモデルは乾式クラッチを使っていたのに対し、1199 パニガーレは湿式クラッチを採用。半クラッチ域が広めで神経質にならずともスルスルと発進する。エンジンから駆動部、各所熱が入ってきたことを確認しながらペースを上げていく。まず走り出して気がつくことだが、ポジションが独特だ。最近のスポーツライディングに順ずるものなのだが、パニガーレはほぼハンドルに乗っかる感じの姿勢になる。これはかなりの背筋が求められる。プレス向け発表会が催されたサーキットで試乗した際には、このポジションこそクイックかつ軽快に車体を振り回すことができる要因だと思ったものだが、いざストリートとなるとかなりスパルタンな印象だ。シートも最低限のクッション性で、座面も狭いので、積極的なスポーツライディングを行っているときには気にならないが、都市部の渋滞を走る際には苦痛とも感じる。とはいえ、このようなことは想定内のこと。これまでのスーパーバイクにだっていえることであるし、そもそもこのようなモデルを求めるライダーには重要ではない。
1199 パニガーレには、何にも変えがたい素晴らしい走りが凝縮されている。レース、スポーツ、ウエットの三つのモードから、シチュエーションに合ったライディングモードを選択。それにあわせ、サスペンションやトラクションコントロール、出力特製が変わる。現行型ムルティストラーダ 1200 から採用されたライドバイワイヤーシステムも手馴れたもので、違和感を覚えるどころか、右手の動きにナチュラルに反応する。
この車両専用に開発されたブレンボ製モノブロック M50 キャリパーの強烈かつコントローラブルなストッピングで減速してから、一気に方向を変え、シリーズ初採用の 200 サイズリアタイヤに目いっぱいトラクションを与えて駆け抜ける。全身から湯気が出るような激しいライディングプレジャーと、それを遺憾なく受け止める 1199 パニガーレの懐の深さに、スポーツバイクの新境地が見えた。
こんな方にオススメ
ドゥカティの新しい答えはスポーツ性のさらなる向上
使い方を間違わなければ、トビラは開かれる
市街地、高速、雨天など、さまざまなシチュエーションでテストを行った。はっきりいって別次元の乗り物になってしまっている。空冷 SS 時代のバイクとライダーが対話しながら走るのではなく、ライダーの要望をコンピュータで解析し、その通りにバイクが走る。しかもその次元たるや、極端に高い場所に設定されている。一般道でも使えるが、真価を発揮するのはサーキットであることは明白だし、そのサーキットでも自在に操るにはかなりのスキルを要することも確かだ。しかし、だからこそ高い所有欲を満たしてくれるのが、こういったプレミアムスーパースポーツバイクなのだ。通勤通学に使ってもらってかまわない。その気になればロングツーリングにだって行けるだろう。だがそれは、ドゥカティの手ごわさを知った上でにしていただきたい。
スーパーバイク1199パニガーレSの詳細写真
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