ドゥカティ モンスター1200S
- 掲載日/2014年07月23日【試乗インプレッション】
- 取材協力/Ducati Japan 取材・文/友野 龍二 写真/VIRGIN DUCATI.com 編集部
モンスターを名乗る水冷エンジン搭載モデルが復活
初代 S4 の 916cc から 1,198cc へと、巨大化した “怪物”
伝統のトレリスフレームに SS 系の排気量 904cc 空冷エンジンを搭載し、倒立式フロントフォークで武装。そしてこのスポーティなパッケージングをフェアリングレスのネイキッドモデルとして仕立てる。こうして登場したモンスターには世界中が驚嘆した。今では各メーカーが同様のスポーツネイキッドをリリースしているが、ドゥカティは 2014年の現在から遡ること 22 年前の 1992年にこれをやってのけたのだ。
イヤーモデルごとに正常進化を遂げる空冷シリーズとは別に、2001年にはスーパーバイク系の排気量 916cc の水冷4バルブエンジンを ST4 用の高剛性フレームに搭載した『モンスターS4』が突如として姿を現す。この突然変異種とも受け取れる水冷シリーズは、その後も独自に進化を続け、2004年には 996cc エンジンへとスープアップし、片持ち式スイングアームとなった『モンスターS4R』、2006年には 998cc のテスタストレッタエンジンを搭載、オーリンズ製の前後サスペンションが奢られた『モンスターS4RS』が登場した。しかし 2008年を最後に水冷モンスターはカタログから姿を消してしまったのだが、あれから6年の歳月が流れ、再び水冷モンスターは復活した。
モンスター1200Sの特徴
心臓部には進化型であるテスタストレッタ 11°DS エンジンを搭載
最新テクノロジーと最強パーツで大きな進化を遂げた
5年ぶりに復活した水冷エンジン搭載の新生モンスターは、2013年11月に EICMA(ミラノショー)で発表され、『世界で最も美しいバイク』の称号を獲得し、華々しいデビューを飾った。空冷エンジンのモンスター1100EVO とバトンタッチする形でモンスターシリーズのフラッグシップとなったモンスター1200/1200S はシャシーから一新され、数々の最新テクノロジーをその身に纏う。
搭載されるテスタストレッタ 11°(イレブンディグリー)エンジンは、2014年の現行ムルティストラーダやディアベルと同様の第2世代=改良型である。これはインジェクターの向きを変更して混合気の均一性を改善し、セカンダリー・エアシステムによって完全燃焼を促進し、2本のスパークプラグで強力な燃焼を実現させる。さらに今回はフレーム、サブフレーム、リアサスペンションの取付位置がシリンダーヘッドへと変更されたため、それに合わせて冷却水やオイル通路を変更し、より剛性の高いものへと再設計を行なった。
イタリア本国仕様ではモンスター1200 とモンスター1200S ではスペックが異なり、スタンダードモデルであるモンスター1200 では 135hp/8,750rpm&12.0kgm/7,250rpm、上位モデルのモンスター1200S では 145hp/8,750rpm&12.7kgm/7,250rpm となる。日本仕様では両モデルとも共通で 126hp/7,250rpm&12.2kgm/7,000rpm を発揮。DSP(ドゥカティ・セーフティ・パック)による3レベル ABS と8レベル DTC(ドゥカティ・トラクション・コントロール)の制御は、3種類のライディングモードを電子制御する RbW(ライド・バイ・ワイヤー)によってエンジンパワーのデリバリーとともにコントロールされる。
スタイリングでまず目を引くのは4リットル増量し、17.5 リットルの大容量となった燃料タンクである。その大きく盛り上がった形状や、50mm の大径エキゾーストパイプがとぐろを巻きながらキャノンスタイルのアルミスリーブサイレンサーへと導かれる造形は、マッシブなイメージを一層際立たせている。一見シンプルに見えるヘッドライトも、レンズ内部の両サイドに3灯ずつの LED ポジションランプがビルトインされた複雑な造形をしているなど、そのほとんどが真新しいパーツで構成されているにもかかわらず、誰が見てもモンスターだと識別できるデザインセンスはさすがだ。
モンスター1200Sの試乗インプレッション
従順かつフレンドリーな姿を見せるモンスターを侮るな
ライダーが許すならば、どこであろうと鋭い牙を剥く
モンスター1100EVO より 61mm 長い、1,511mm のホイールベースは『ロー&ロング&スリム』という独特なスタイルを生んだ。この不思議なディメンションを眺めながら、前後に余裕のある低いシートに跨り、高いハンドルバーへと手を伸ばすと、このバイクはどう扱うのが正しいのだろう? と戸惑いを覚えてしまった。ポジションから想像するに、リアタイヤにドンと荷重を乗せてクルーザー的に扱うのが正しいのか? はたまたモンスターという車名を冠した歴代のモデルのように、積極的にフロントタイヤに荷重をかけてスポーティな旋回性を楽しむのが正しいのか? 先に明かしてしまうが、結論はいたってシンプルなものであった。そう、“どちらでも良い” のだ。“すべてはライダーまかせ、いかなる要求にも対応できる懐の深さを持っている” のが新生モンスターの真の姿であった。
イグニションキーをオンにするとまず目に飛び込んでくるのが、TFT(薄膜トランジスタ)カラーディスプレイで構成されるインストルメントパネルだ。このカラーディスプレイは、選択するライディングモードによってデザインと表示情報量が変化する。アーバンモード(DTC レベル=5、ABS レベル=3、エンジンレスポンス=ロー 100hp)では『コア』となり、市街地環境に合わせて必要不可欠な情報のみが表示される。ツーリングモード(DTC レベル=3、ABS レベル=2、エンジンレスポンス=ミディアム 126hp)では『フル』とされ、長距離ツーリングに必要となる情報をすべて表示する。スポーツモード(DTC レベル=1、ABS レベル=1、エンジンレスポンス=ハイ 126hp)では『トラック』となり、スポーツ走行に必要な情報のみが表示される。
まずは『アーバン』モードで走り出すと、これが実によく調教されていて心地良いパルス感をともなう走りを見せる。スロットル操作に対して従順に柔らかく反応するため、このモードならば長時間のライディングも苦にならないであろう。次に『ツーリング』モードへと変更すると、エンジン出力が上がり、俄然元気になる。とは言っても過剰な反応は見せず、ダイレクト感が高まるだけで、多少であればラフなスロットル操作も許容してくれる。このまま峠道をハイペースで駆け抜けることも可能ではあるが、コーナーへの進入でフルブレーキを行うと、モンスター1200S に搭載されるブレンボ製 M50 ラジアルマウントキャリパーと 330mm 径ディスクは強烈なストッピングパワーを発揮する。フロントタイヤ(ディアブロ・ロッソ II)はそのパワーを受け止めてくれるものの、反力でリアタイヤは浮き上がろうとする。するとアンチリフトアップ機能が作動し、予期せぬ ABS の作動を誘発するので意識しておかなければならない。
最後に『スポーツ』モードへと変更すると、これぞモンスターと言わんばかりの姿をさらけ出す。その加速力はフロントタイヤをいとも簡単に路面から切り離すほど荒々しいものだ。アンチリフトアップ機能もカットされ、DTC も最小限の介入しか行わないため、コーナーの立ち上がりではわずかなパワースライドをともないつつ、路面にブラックマークを刻みながら加速するなんて芸当も軽々とこなす。そんな高い荷重が発生したときに初めて車体剛性の高さに気づかされた。ねじれ剛性が約2倍に増したフレームとダイカスト・アルミニウムの片持ち式スイングアーム、そしてモンスター1200S に装着される 48mm 径のオーリンズ製フロント倒立フォークは、どこまで追い込んでも破綻する気配など微塵も感じられなかった。
あらためて車体構成に目を向けてみると、新型トラスフレームで 1.23kg、スチールパイプシートレールで 1.1kg、モンスター1200S の前後ホイールで 1.1kg と、徹底的に軽量化と低重心化が図られている。その結果、ライダー乗車時の重心ポジションはモンスター1100EVO よりも 20mm 低く、43mm 後方へと下げられた。前後の重量配分も変わり、50:50 から 47.5:52.5 と重心を後輪側へ移行し、フロントまわりに軽快感を持たせている。水冷化されて重量増になった部分を、低重心化で補うことによって高い運動性能が発揮できるようになった。
このように間口の広がったモンスターには、ウインドスクリーンやタンクバッグ、シートバッグやサイドパニアケースといったロングツーリングに重宝するアイテムや、アルミ削り出し、またはカーボンのスポーティなパーツなどのオプション装備が豊富に用意されている。これらの中から好みのパーツをチョイスして自分に合った一台を作り上げるのも楽しみである。ただ、ひとつだけ心残りがあるとすれば、770mm と着座位置が低い日本仕様のシートでは、S字の切り返しでわずかにイメージとタイミングのズレが生じた。機会があれば、イタリア本国仕様のシート(810mm)や数種類の高さが用意される純正アクセサリーシートをぜひとも体験してみたい。
プロフェッショナル・コメント
操作性と安全性、スムーズさが加わり
純粋に走りに集中できるバイクになった
2014年5月にドゥカティジャパン主催でモンスター1200/1200S についてのディーラー研修会が行われました。発売前のモデルに試乗できるのはディーラーの特権であり、お客さまに正しい情報を提供する義務を果たすためでもあります。
モンスター1200 は、クラッチをリリースしてゆっくりと発進した瞬間や、走り始めて数分後に感じたエンジンの印象が今までのモンスターとは違いました。これまでのモンスターは、いい意味で荒くれ者というか、2気筒独特のフィーリングを持ち、ライダーも操作を考えながら乗るようなバイクでした。でもモンスター1200 は違います。ひとことで言うとスムーズなのです。そのスムーズさに私は “モンスターではない” と思ってしまいました。しかし、さらに走るとモンスター1200 のすごさに気がつきます。
近年のバイクは非常にパワーが上がり、楽しさと同等に怖さが付きまといます。その怖さがバイクの楽しみを半減させていると考えるドゥカティは、数年前から安全性を重要視しており、モンスター1200 にも4段階で調整可能な ABS と8段階のトラクションコントロール、3種類のライディングモードとパワーモードが標準装備されています。実は当日の天候が大雨でしたが、そんな中でも怖さがなく、効いているかどうかもわからないほど滑らかな ABS は、砂の上でブレーキをかけてもなにごともなく止まりました。以前のモンスターは操作に集中し、コーナーをきれいに曲がると喜びを覚えるバイクであったのに対し、モンスター1200 はこの安心感とスムーズさによって “純粋に走りに集中できる” バイクなのです。
モンスターを発売当初から見てきた私は、車体が軽くてコンパクト、ライディングポジションが乗りやすく、どんな使い方にも合うオールマイティ性がモンスターの魅力だと思っています。モンスター1200 ではこれに、操作性と安全性が追加されたのです。そして試乗が終わるころには、最初に感じたモンスターではないという感覚が消えていました。モンスター1200 はライダーの思い通りに走る怪物(モンスター)であると同時に、走りに集中した本人も怪物(ワンランク上のライダー)になれるのだと、土砂降りの中でエンジンを切りながら確信しました。(ドゥカティ鈴鹿 ストアマネージャー 中村 睦さん)
モンスター1200Sの詳細写真
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