2011DUCATI 現行モデル一気乗り・ディアベル
- 掲載日/2011年11月22日【トピックス】
- 写真/Takao ISOBE、Takeshi YAMASHITA 文/ Takeshi GOTO
本記事は、 『DUCATI BIKES』 Vol.08 (2011年5月発行)にて掲載されたものです
DIAVEL インプレッション
“DUCATIがクルーザー!?”それだけで、良くも悪くも強烈なインパクトを持ちデビューしたディアベル。ここ日本でも、まもなく走り出すことが決まっている。どんな乗り味なのか、想像もつかないニューモデル。一足先に、そのライディングフィールを確かめてみた。
失望と期待を備えた悪魔登場
ドゥカティがクルーザーとは世も末だ。それがディアベルというマシンが登場すると聞いて最初に思った事。昔から一貫してロードスポーツの可能性を追求しているメーカーの姿勢、純粋さが好きだった人にとってみれば、クルーザーを作ったドゥカティなど、公然と浮気をしている恋人みたいに見えてしまうかもしれない。何しろクルーザーなんて、ある意味でロードスポーツの対極にあるシロモノ。240なんて極太のリアタイヤとか長いホイールベースとか、やり慣れないことやって失敗するんじゃないか、なんて僕は最初から疑惑の目でディアベルを見ていた。今回の試乗にあたっても「思った通りのことを書くからね」と散々編集長に念をおしたのであった。
マシンを前にすると、やっぱり異様。マシンがでかいということもあるのだが、内臓が飛び出してしまったようなマフラーとかリア周りの造形とか、えらくインパクトがある。ノペッとしたボティからステアリングが飛び出している様子は、バイクという感じがしない。跨がってみるとシートの低さに驚く。両足ベッタリ。ハーレー級に低い。他メーカーなら「いいねえ」と思うのだが相手はドゥカティである。今まで何よりも運動性一番で作られたマシンは、どれも相応のシート高になっていた。
ちょっと遠めのハンドルに手を伸ばすと大きなタンクを両手で抱えているような感じ。このあたりで今までのドゥカティとまったく違う乗り物だという事が嫌という程分かった。大きく深呼吸してセルボタンを押せば、目覚めたエンジンはドンドロドンドロとライダーを威嚇する。やっぱりハンドリングは期待できそうもないな、という予感は、このあたりで最高潮に達したのであった。
男性らしさを強調したというデザインコンセプトということだけあり、威圧的なスタイリングが目を惹くディアベル。トレリスフレームをフロントに使い、リアにサブフレームを繋げる手法は、現行ドゥカティの基本。ロングホイールベースの見た目からは想像つかないハンドリングを味わえる。経験と技術の蓄積を余すことなく使いつつ、全てにおいて新しい思想を持ったドゥカティだ。
凶悪無比なその加速
走り出したディアベルは思いのほか従順だった。クラッチもスムーズにつながるし低速でのハンドリングも悪くない。トルクがあるから市街地も楽。しかし、それはスロットル開度1/4までの話。右手を開けた瞬間、一気に凶悪な表情をむき出しにした。スロットルを開ければ、どんな回転域からでもドカンと飛び出す。ステップが比較的前の方にあるものだから下半身でこの加速Gに絶える事はまったく不可能。お尻がシートの上を滑っていき、後端のストッパーに押し付けられる。
ボヤッとしていると両腕が伸び切って、肩から引っこ抜けそうな猛烈な加速。これだけホイールベースが長いのにフロントホイールは隙さえあれば持ち上がってことようする。馬力だけ言えば、マルチエンジンでもっとパワーのあるマシンもある。しかしハイパワーツインの瞬発力にはおよびもつかない。しかもこのテスタストレッタエンジン、高回転での伸びも素晴らしい。スロットルを開け続けると加速度が急上昇して昇天しそうな快感ゾーンに到達する。
マルチのハイパワーエンジンは、こういう時に恐怖感が先に立ってしまうことも多いのだが、とんでもない加速の中でゲラゲラ笑ってしまうくらいに愉快なのは、たぶんドゥカティのパワーユニットだからこそ。猛烈に速いのと同時に猛烈に愉快なのである。スーパーバイクレースで最速を目指してきたエンジンを良くぞここまで変身させたと思う。ちなみにエンジンには最近流行のパワーモードを切り替えるセレクターがあり、スイッチ一つでエンジン特性はガラリと変わる。まさに喜怒哀楽の激しいイタリア人気質そのままである。
ドゥカティにあるまじき長いホイールベースは、ドッカンと加速している時も恐るべき安定感をまったく失わない。240のタイヤも路面に食いついて離さない。ドラッグレーサーのごとき加速を思う存分楽しむ事が出来るのは、まさしくこの車体のおかげだ。しかし、ここまで安定しているとハンドリングがドッシリと重いマシンになるのが普通だ。ワインディングではこれがいったいどうなるのか、それがとても気になる。
そこで持ち込むことにしたのが中速の回り込んだコーナーが連続する典型的な日本のワインディング。この時点でもまだこのマシンを信用していない僕は、恐る恐る様子を見ながらリーンウィズでマシンをバンクさせていった。すると意外にいい。太いタイヤのせいでリアが粘るような感じはあるが、その他はまったく気にならない。フロントタイヤがしっかりと路面に食いついている感じは素晴らしく安心感がある。これならもしかするといけるんじゃないかと思ってペースを上げてみる。ハードにブレーキングしてコーナーに進入して、速度が落ちてから丁寧にバンクさせ、直線が見えたらスロットルを全開。つまりハイパワーなクルーザーで要求される乗り方だ。ディアベルはこれも余裕でこなしてしまった。
クルーザーと呼べぬ高い運動性能
どこまでいけるのか、ちょっと本気で走ってみる。タイヤが太いマシンは、バンクさせていくとタイヤと路面との接地点が内側に移動していくから、それを追いかけるイメージで体をイン側に大きく落とす。上体は大きな車体を押さえ込むような姿勢。70年代のスーパーバイク乗りとまったく同じような感じ。安定した車体をライダーが積極的に曲げようと捩じ伏せるようなイケイケライディングだ。これがみごとにはまった。びっくりするほど気持ち良く走るようになったのである。
ディアベルの低いシートと上体がリラックスしたポジションは、ハイスピードからのブレーキングでも恐怖感が少ない。前にあるステップに踏ん張り、盛り上がったタンクで体が前にいかないようにすればハードブレーキングも安定している。下り坂などはセパハンのロードスポーツが可哀想になるくらい楽に走れる。ということはつまりコーナリングで最も重要なバンキングの時点で気持ちに余裕ができるということ。これ、ライディングでとっても大きな武器。
ここだと狙ったラインめがけて体でインに引っ張り込むように大きな車体を捩じ伏せるようにバンクさせていくと、ビタっと安定して旋回していく。出口が見えたらいつもよりちょっと我慢して確実に向きを変え、マシンが起き上がってくると同時に全開。落としている上体を引っ張る加速Gに耐えながら腰の位置をシートに中心に戻していく。時々接地するステップは峠でちょうどいいセンサーになる。ブレーキングもバンクも加速も「エイ」というかけ声一発で豪快に操作するのが楽しいし、それくらい思い切り走らせるのが、このマシンの性能を引き出す秘訣だ。今までのドゥカティに比べれば大きく重くてホイールベースも長いのだが、そのことで生まれた安定感は、決してダルになるのでなく、いい意味での安定感につながった。ハイレベルで中々乗りこなすのが難しかったマシンが、一気に身近になった感じがする。
ドゥカティストにどう響くか
最初の印象と乗った後での感想がここまで違ったマシンもあまりない。個人的な趣味で言えば、過去乗ったドゥカティの中でダントツの一番。すべてのメーカーのアップハンのスポーツバイクを持ってきて比べてもディアベルの楽しさは一、二を争うと思う。初めてドゥカティに乗る人でも、この安定感と乗りやすさ、乗りこなし甲斐のあるハンドリングに夢中になる事だろう。
と、ベタ褒めなのだが、今までドゥカティに乗っていた人達が、このマシンに対して僕と同じように感じるかどうかは微妙なところ。このマシンには豪快さはあっても、切れるような鋭さがない。これまでドゥカティのスポーツバイクにあったような、ギリギリのところでマシンと対話していくような走り方は、このマシンに期待してもできないのである。どちらがいいか、それはライダーの趣味、考え方、そして乗り方で決まる。確かなのはドゥカティが、「スポーツできるクルーザー」という、これまでとまったく違う世界を開拓したということ。モンスターが登場してきた時と同じように、ここからまた新しい流れが生まれるのではないか、試乗を終えた今、僕はそんな感じがしている。
詳細写真
もう一方の悪魔 DIAVEL
ディアベルカーボンとの違いは外装だけで、中身は同じというスタンダードバージョン。カーボンバージョンとの違いは、タンクパネル、シングルシートカバー、フロントフェンダー。フロントフォーク、ホイールである。二つのモデルの価格差は34万円だ。高いか安いかは別としても、前後ホイールだけでもそれだけの価値はあると思う。カーボンバージョンのほうが軽量ではあるが、ディアベルに興味があり、購入を考えているライダーにとって、車重という点に限って言えば、そこまで気にしないポイントかもしれない。それよりも自分好みのスタイリングに注力を注ぐのであれば、スタンダードバージョンをベースとし、34万円分のカスタムを施すことも一つの手だろう。
編集部コメント
これまでのドゥカティには無い感触
クルーザーやドラッグマシンを彷彿とさせる外見を纏いながらも、機敏な運動性と軽やかなコーナリングを得意とする唯一無二の存在。240mm幅という極太なリアタイヤの影響によりバンクさせると前後タイヤの接地点が進行方向に対して左右に大きく開く。この内輪差によって深くバンクさせた時にフロントの接地点が遠く感じたり、リアタイヤの接地点と荷重点の相違に違和感を覚えるライダーも居るだろうが慣れれば問題ないレベルである。(ドゥカティマスター 友野 龍二)
まずは乗ってください
気になっていたモデルがついに上陸。ドゥカティを信じ、スポーツ性能はばっちりだろうと考えていた予感は的中した。速い、曲がる、そしてカッコイイ。これは皆が求めていたカタチだと思う。どこに乗っていっても注目の的だし、なんといっても乗っていて楽しいバイク。これに関しては、食わず嫌いは良くない。絶対に乗ってみるべき。ただしスロットルをカパカパ開けて遊びすぎると、ポジションのせいもありクビが痛くなる…。(DUCATI BIKES 元編集長 小松 男)
女子にも問題なし
まずルックスのインパクトがすごい!ワイルド。なんだか乱暴そうに見えちゃうけど、これが走ってみたらとっても優しいの。意外なほど扱いやすくて、足着きもいい方だから女の子でもけっこう取り回せると思う。コーナリングはゴロっとバンクする不思議なハンドリングだけど手応えは軽快。難しいバイクじゃないね。ただしディアベルは加速が強烈。フル加速すると振り落とされそうになる。このルックスと力強さ、非日常のカタマリかも。(フリーライター TOMO)
ドゥカティの新しい答え
発表されたときには「ドゥカティがアメリカンスタイルのクルーザー!?」と驚きと戸惑いと懐疑的なキモチがわいた。ロー&ロングのスタイルと240サイズの極太タイヤが作り出すシルエットは、たしかにこれがドゥカティであることを忘れさせる。しかし実車を見るとそういうのは「古い固定観念」であることに気づく。走ってみれば、なるほどおもしろい。こんなカッコしててもハンドリングは素直で、適度な刺激ある走りがおもしろい。(DUCATI BIKES 元編集部員 山下 剛)
痛い目にあわないよう注意
これまでにない新しいバイク(ジャンル)を創りたい、というコンセプト通り、スタイリングこそクルーザーのようだが、鋭く加速し、操作性を兼ね備えたブレーキシステムからは、これがスポーツバイクだと実感させられる。旋回中にスロットルを少しでも開けた際の“立ちの強さ”は、特注の極太リアタイヤによるものだろう。思わず車体の内側に身体を伏せてリーンインしたくなる。コーナー手前で旋回速度を誤ると痛い目に遭いそう…。(VIRGIN DUCATI.com 編集部 田中 善介)
TOMOのタンデムインプレッション
タンデムシートの下から引き出すタイプのグラブバー。使わないときはスマートに収まる…カッコ良いじゃない。すごく持ちやすいと言う訳ではないけれど、必要充分な機能は備えている。で、乗り心地も悪くない。広くはないけどボリュームのあるシートがお尻を包んでホールド感を高めてくれる。長時間乗っても疲れにくそう。
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