2011DUCATI 現行モデル一気乗り・モンスター796/696/1100
- 掲載日/2011年12月06日【トピックス】
- 写真/Takao ISOBE、Takeshi YAMASHITA 文/Dan Komatsu
本記事は、 『DUCATI BIKES』 Vol.08 (2011年5月発行)にて掲載されたものです
MONSTER -796 / 696 / 1100インプレッション
旧型モンスターの成功をプレッシャーに感じながらもデビューし、見事に成功を収めたニューモンスターシリーズ。コンパクトな696、そしてハイパワーな1100の、中間を埋めるべく登場した796にスポットを当てることにした。
無くてはならないモンスターの存在
ここ最近20年間のドゥカティラインアップを見返して、忘れてはいけないのはモンスターの存在とその業績だ。1993年、ミゲール・ガルーツィの手により851の骨格に空冷Lツインの心臓を抱かせるという、まるでフランケンシュタイン博士が怪物を誕生させたかのごとくこの世に送りだされたモンスターシリーズは、瞬く間に世界中のドゥカティオーナー人口を増やした。スーパーバイクモデルの進化やニューモデルの開発も、初代モンスターが成功したからだと私は思っている。さらに主観的な意見を挙げるとすれば、そもそもネイキッドモデルに興味がなかった私が、はじめてかっこいいと感じ、購入を考えたバイクがモンスターだった。
それから15年間、排気量やシャシーの見直し水冷モデルの投入など、幾度と無く手が加えられ愛し続けられた旧モンスターは今もファンを多く持っている。日本市場のために400ccモデルが作られたことも、日本人ライダーの多くがドゥカティを認知する良いきっかけとなっていき、旧型モンスター総生産台数は20万台を超えるものとなった。そして2008年にフルモデルチェンジを果たしたニューモンスターM696は、初代モンスターの持つイメージを踏襲しながらもまったく新しいモンスターとして十分なインパクトを持って登場した。ニューモンスターは、またもやネイキッドバイクのアイコン的存在となり、他メーカーの後発ネイキッドも影響を受けている印象だ。かくいう私自身、M1100Sのスタイルと性能に惚れ込んでしまい手を出してしまった一人である。
M696はコンパクトなシャシーの中に、ドゥカティのスポーツ性能がしっかりと根付いており、エキスパートをもうならせる実力派だ。その後を追って加わった歴代最強の空冷エンジンを備えるM1100/Sは、まさに怪物を乗りこなすかのごとく太いトルクを持ち強烈な性格となっている。そして昨年その中間を埋める存在のM796を加えレンジを広げている。そんなモンスターシリーズは現在のドゥカティの中心的なモデルといえよう。今回はその中でも一番新しい仲間であるM796に、改めて乗ることにした。
M796はM696をベースに排気量を上げたエンジンを、兄貴分であるM1100の骨格にインストールしたモデルだ。身長175cm以上ある私の場合、696では少し小さいと感じることがある。それに、所有し日常生活で乗っている1100は、ストリートでは、免許の心配をするスピード域まで一瞬にして辿り着き、実際にもてあますと思うことがある。なので、中間的存在となる796の登場は必然的だったのだ。ストリートで使い勝手を考え、ハンドルが高くされたポジション、渋滞路をはじめ低速での操作性を考慮した湿式クラッチの採用など、696と1100の良い部分を足したモデルなのだ。
ニューモンスターの次男坊であるM796は基本的にはM1100のシャシーを利用している。しかし、シート表 皮の変更やハンドルポストの変更により、シート高はM1100に比べ10mm低い800mm。そして上体が起きたポジションとなりM1100とは違ったライディングフィールを感じることができる。とはいえM696と比べ ると、大きい印象を受けることも事実だ。程よいパワーで、振り回せるから楽しい。
M796の持つベターフィーリング
ストリートを走り出し早3年の月日が経ち、もう見慣れた感の強い現行モンスター。M796は基本的に1100と同じスタイリングであるため特筆する部分はないのだが、ハンドルポストが延長されており、またがってみると1100に比べ上体が立ちポジションが楽なことに気づく。昨年696も796を追って同様のハンドルポストが採用されたが、それまでの696や1100のポジションは、前傾姿勢、そして幅の広いバーハンドルで、独特の乗車感覚だった。1100に関して言えば、ラフなスロットル操作で、いとも簡単にフロントが宙に浮くパワーを、上体を使って押さえ込むために、あの低いハンドルが有効なのだが、サーキットなどを走ったうえでの希望としては、さらに低く、そして手前に絞ってあると、より良いと感じている。対して796は、とてもキャッチーで乗りやすいポジションだ。モンスターの臭いが緩和され、とっつきやすいのだ。それはエンジンを始動し、走り出すときにさらに感じることができた。796や現行696のポジションはリーンアウトからハングオフまで自由度が高く、気負いすることなく、そして幅広いシチュエーションで楽に走らせることができる。
カラカラと音を出す乾式クラッチは、“好き”な人にとっては良いが、知らない人には壊れているのかと思わせることもある。もちろんサーキットというステージで育ってきた乾式クラッチにはパワー伝達ロスの軽減や、高温時にもクラッチ動作がしっかりしているなどのメリットも多い。しかし家のガレージから、毎日乗り出すような使い方を中心にスポーツライディングを楽しむ程度ならば、湿式クラッチにネガティブな要素はほとんど見当たらない。乾式タイプに比べルーズにクラッチレバーを離しても、さほどギクシャクすることはないので気を使わなくて済む。
パワートレインに関してはベースとなっている696エンジンのストロークを伸ばしつつギア比は同じというセッティングの796。モンスターに先立ってハイパーモタードに搭載されていたその印象は、実際のところ想像と比べ低回転域のトルクが薄いと感じるものだった。低速からドカンと背中を蹴られたような加速を楽しめる1100に乗りなれているので致し方ないとも思う。それに696と比べれば大きいパワーだ。しかし796の持つ感触は長く乗るうちに、このパワーカーブと車体とのバランスが、ツーリングユースにとても適しているということに気づいたのだった。市街地のストップアンドゴーが頻発する場面は、スロットルをラフに操作してもストレスになるギクシャク感が無く、それでいて高速道路のようなステージでは、ギャンギャンとエンジンを回しデスモドローミックのパンチを楽しむことが可能なのである。だから長時間、そして長距離を走っても苦になることは無い。もしかすると全モデルラインアップ中、最強のツーリングパッケージなのかもしれない。なぜならばスーパーバイクモデルはドゥカティの中ではロングツーリングに向かないことは確かだし、ロングランに強いムルティストラーダにしても重さや車高の高さは万人向けとは言えないだろう。
足回りに関して言えば、1100譲りの車体でリアタイヤに180サイズを装備していることが、スロットルワークで左右に振り回すときに重く感じたこともあったが、裏を返せば安全マージンが高いと言える。それに片持ちタイプのスイングアームは、やはりスポーティな印象がある。車体剛性が強いので高速コーナーでもグッと踏ん張ってくれ、気持ちよくリーンを楽しむことができる。他のモデルでも言えることだが、ABSの採用はスポーツバイクドゥカティだからこそついていて欲しい装備だ。
街中の喧騒を抜け、高速道路をひた走り、ワインディングは気持ちよく駆け抜け、家に帰ってもへとへとになって布団に潜り込むことなく、アルコールを楽しみながら家族と会話をたのしむことが出来る。そんなモンスターなのだ。
タンデムで楽しむモンスター
今回じっくりと796に乗ってみて、696/796/1100それぞれの良さを再認識する形となった。696はポジショニングから考えても女性や初めてのドゥカティでも楽しめるパッケージとなっており、1100はレーシーで荒々しく今にも檻から飛び出そうとする怪物を自分の手にするパワーを楽しめる。そして796は、シチュエーションを選ばずにドゥカティの良さを感じることが出来る本当に中間的な存在だった。そしてその使い勝手は、ロングツーリングやスポーツライディングだけでなくタンデム時のことも考えられているものと感じた。スロットル操作にシビアすぎないパワーの出方や、696よりも車体剛性やパワーがあるポイントを集めると、タンデム時にライダーもパッセンジャーもストレスが少ないということに気づいたのだ。イタリアの洒落男が、女性をナンパして持ち帰るときだけでなく、その後タンデムデートをする時にまで、しっかりと口説きツールとして機能するのである。これから彼女を口説き落とす人にも、ワイフにドゥカティ購入の許しを請う人にも、タンデムライドが口実となりおすすめできるモンスターだ。
これらの棲み分けを上手にもってくるところは、やはりドゥカティの中でも最も幅広いライダーに受け入れてもらいたいというモンスターの位置づけがあってこそのものだろう。さて選択肢は揃いました。あなたならばどの怪物を選びますか?
詳細写真
進化する兄貴分 M1100
モンスター兄弟の長兄となるM1100が、今夏マイナーチェンジしM1100EVOとなる。基本的なスタイリングはそのままに、エンジンは空冷2バルブエンジン最強となる100HPを発揮。右サイドにセットされたショートマフラーや、ライダー側のステップとタンデムステップのセパレート化、DTCおよびABSの装備、そして湿式クラッチの採用など、オーナーの意見を取り入れつつ熟成をさせた形となる。
このモデルチェンジによりM796、M696と全てのスタイリングが異なる形となる。ユーザーの目から見ても、どのスタイリングがどのモデルということが分かりやすくなるのだ。現在のところ、Sバージョンの設定は発表されていないが、ゆくゆくはラインアップにのる可能性も否めない。
STREET FIGHTER 編集部コメント
オールマイティとはこのこと
長い期間かけて熟成しただけあって、とっても完成度が高いマシン。以前は個性的なぶん癖もあったが、現行モデルでは欠点らしい欠点が見つからない。796は、この車体にベストな選択。パワーもちょうどいいし、高回転での回り方もリッターオーバーのツインに比べれば軽やかで疲れない。今回、コイツから乗り換えると、どのマシンも激しくて驚いてしまう。ツーリングからワインディング、サーキットまでこなす事が出来る。(フリーライター 後藤 武)
日本の道にベストマッチ
入門用として最良の696に対し、それなりのスキルを有するライダーやブランドネームに拘って所有欲を満たしたいと願うライダーには1100という棲み分けがなされていたが、1100は、その名の通りモンスターなのである。簡単には手懐けられず意外と敷居が高い。そこに登場した796は696の扱い易さとコストパフォーマンスを継承しつつ1100の華麗なスタイリングを手に入れた。このバランスの良さが日本の道路にマッチする。(ドゥカティマスター 友野 龍二)
長く付き合えるバイク
見た目はネイキッドだけど、これは気軽に乗れる、れっきとしたスポーツバイクだと思う。開けたらワクワク元気に走る。それでいてオールラウンドに使いやすい。DUCATI初心者さんや女性にもオススメの入門バイクとしてもいい感じ。美味しいとこ取りだね。横に広いハンドルは不思議なポジションだけど、取り回しも楽ちんで悪くない。軽くて素直で扱いやすくて。自分の手足の一部の延長のよう。長く付き合えそうなバイク。(フリーライター TOMO)
中途半端が私と似ている
いいとこどりというのは、得てして中途半端に陥りやすい。これはあらゆるものの宿命。しかしハンパ者の私を含め「そういうのがスキ」という人も多い(ハズ!)。そういうところで、M796は私の好みに合っている。空冷Lツインの鼓動感は街中でもココロを躍らせてくれるし、峠道に連れ出せばここぞとばかりにモンスターの愉しさを全身で感じられる。幅広いハンドルとしっかり荷重しないと曲がってくれないのは、もはや愛嬌。(DUCATI BIKES 元編集部員 山下 剛)
バイクらしいバイク
今回、最も長い時間と距離を過ごした相手だ。聞いた話では「相当乗り易くなっている」「696と1100のいいトコ取り」とのことだが、その経緯を体験していない身としては、万能選手、バイクらしいバイク、という印象。シンプルなスタイル、加速を楽しめる出力感、高速走行も退屈せず、それなりの速度で巡航出来る。万能なだけに119万円という価格が「…」だが、憧れのドゥカティになんとか手の届くモデル、なのだろう。(VIRGIN DUCATI.com 編集部 田中 善介)
TOMOのタンデムインプレッション
DUCATIのラインアップの中ではタンデムシートが広めのモンスター。796で新たに設計されたというそれはボリュームがあってライダー、パッセンジャー共に優しいつくり。オプションのグラブバーも握りやすく、自由度が高い。いろんな体格に合わせやすいと思う。特別に構えなくても、気軽にタンデムできるバイクじゃないかな。
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