2011DUCATI 現行モデル一気乗り・ムルティストラーダ1200Sスポーツ
- 掲載日/2011年12月13日【トピックス】
- 写真/Takao ISOBE、Takeshi YAMASHITA 文/ Takeshi GOTO
本記事は、 『DUCATI BIKES』 Vol.08 (2011年5月発行)にて掲載されたものです
MULTI STRADA 1200S Sport / S Touring インプレッション
1台で4台分のモーターサイクル。それがムルティストラーダの売り文句だ。最新電子制御技術を採用し、高速道路からワインディング、未舗装路に至るまで、そこが"道"である限り走り続けられる万能性が加わっている。
現行ムルティはギミックてんこ盛り
ムルティストラーダに初めて出会ったのは2000年。イタリア、サルディニア島で行われた試乗会だった。サーキットを速く走るのではなく、あらゆる道路状況で楽しく走る事が出来る、新しいロードスポーツの登場に胸を熱くし、夢中になってイタリアの峠を走り回ったものである。その後、何回かの仕様変更を経て、昨年フルモデルチェンジをした。
ニュームルティで驚いたのはその電子制御。ボタン一つでエンジン特性とサスセッティング、トラクションコントロールシステムを同時にコントロールし、ツアラー、アーバン、エンデューロ、スポーツバイクと路面状況や使い方に応じて最適なマシンにトランスフォームしてしまうのだというアイデアを聞いた時は、とうとうバイクもここまで来たか、とぶったまげたものである。たぶん、変身ヒーローもの、合体ロボットで幼少期を過ごした40代には、ビビッと来るものがあったに違いない。
この機構は新しい可能性を示唆するものであったと同時に、一般的なライダーにとって、とてもありがたいものだった。サスペンションの指南書など読みながらやっても、やっぱりサスペンションセッティングは難解で、良くなったつもりでも本当のところどうなのか理解できないという人、実はとっても多かった。だったらロードの時はコレ、とボタン一つで決まってしまう方が、圧倒的に楽で間違いがない。走りながら変身させられるというのは、ムルティストラーダ独特の楽しみ方。
デビューから10年の時を経てフルモデルチェンジを果たした、ドゥカティ唯一のマルチパーパスモデル。その特徴は四輪でいう「SUV」である。どんな道も走破するコンセプトはそのままに、空冷から水冷となったLツイン、最新電子制御によるインジェクションマッピング、サスペンション特性、トラクションコントロール特性を変更する走行モードの搭載が大きな変更点だ。同時にスタイリングも大きくイメージチェンジを受け、ブラックアウトするパーツを多用することで大柄な車体を小さく見せる手法が採られている。
高い完成度とスポーツ性
と、どうしてもこのギミックに目がいってしまいがちなのだが、現行のムルティストラーダは、マシン全体の完成度が前モデルに比べて格段にあがっているという点を忘れてはならない。これだけの電子装備を組み込んでいるにも関わらず189kgという軽量な車体にテスタストレッタ11°エンジンを搭載。スーパーバイク用のテスタストレッタをベースとして、バルブタイミングのオーバーラップを減らしたこのエンジンは、高い環境性能と低中速での扱いやすさを大幅に向上させている。そうなるとテスタストレッタが本来持っている吹け上がりの心地良さや爽快なパワー感が失われているのではないかと心配になったりもするのだが、これがまったく感じられないのがドゥカティマジック。ワインディングで思いっきり回すと、非常に気持ち良く上まで回っていく。スーパーバイクの暴力的な加速こそないが、その代わりに小気味良い楽しさが生まれている。
ロードスポーツモードにセットして峠を走る場合でも、スーパーバイクやネイキッドなどから比べると、サスの動きは多い。車体がフワフワと落ち着かない印象を受けるのだが、それは自分の乗り方が招いている事。ストロークの短いマシンでは分からないだけで、無駄な操作をしているという証拠。丁寧にマシンを操ってやれば、フワフワ感はなくなる。
ツーリングからオフまで、あらゆる路面に対応する万能さゆえに、ムルティストラーダはワインディングでスポーツバイクに速さ、楽しさで負けるのではないかというイメージを持っている人がいる。しかし、サーキットのような限界走行でならともかく、ワインディングでひけを取ることはない。サスの動きで生じるタイムラグを見越してバイクを操るのが、ムルティストラーダのスポーツライディングだ。
ブレーキングでサスを沈ませたら、次は旋回のGでサスが沈んだままにするようなイメージでブレーキレバーのリリースとマシンのバンキングをシンクロさせながらバンクを開始。しかしブレーキレバーを握りっぱなしにしてしまうとフォークが沈みすぎてバンクさせにくくなってしまうため、スムーズに、それでいて素早くブレーキを離して旋回の体勢に移るのがこのマシンを上手に操るポイント。ダラダラといつまでもブレーキをかけたままにしておくとコーナーの中で大きな姿勢変化が生じてしまう為、うまく操る事ができなくなる。切り返しも力任せに操るのではなく、サスの動きを読みながらマシンを操るようにする。それさえできればどんな道でも意のままに走る事が出来るはずだ。
路面を選ばずスポーツできるコンセプトのマシンは、他のメーカーでも存在するが、ムルティストラーダの走りは、そういったライバルと比べて圧倒的にスポーティでハイレベル。旧モデルでは若干フロント周りの重さを感じる事もあり、コーナーでの俊敏さがスポイルされるような時もあったが、現行モデルではそういった点が完璧に改良されている。
更にムルティストラーダには、もう一つのポイントがある。ドゥカティ最高峰のツイン、テスタストレッタエンジンを搭載したマシンの中で最も乗りやすく、万人受けするということだ。触れれば切れそうな鋭さのスーパーバイクも確かに素晴らしい。しかし等身大で付き合う事が出来るテスタストレッタ、というのも、これはまた別な意味で魅力的だと思うのである。
詳細写真
カーボンパーツを装備するスポーツモデル
ムルティストラーダシリーズには3モデルがあり、電子制御サス機構が省かれる標準モデル、パニアケースとセンタースタンド、グリップヒーターが装備されるツーリングエディション、フロントフェンダーやカムベルトカバーなどがカーボン製となるスポーツエディションが揃う。ツーリングエディションとスポーツエディションは、いわゆる"Sモデル"となっており、両モデルの差異はオプション類の装備の違いのみで、エンジンやシャシーの機構や販売価格は同一だ。そのためパニアケースなどをすでに所有している、または他社製を使いたいという理由ならスポーツエディションを、すぐに旅立ちたいのならツーリングエディションを選ぶといい。電子制御サスペションは一度使うとその便利さを手離せなくなる。
編集部コメント
欲張りなパッケージ
走行中であっても手元のスイッチ操作一つで変更可能な4種類の各モードはアクセルレスポンス、DTCの介入度、ABS作動の有無のみならず車高や減衰までも明確に変化させる。モードごとに個性的なキャラクターが顔を覗かせ、どんなステージでも高いレベルで走破する。街乗り・長距離ツーリング・スポーツライディング・そしてダート走行に至るまで1台のバイクで様々な場所に出掛けたいという欲張りなライダーに是非乗ってもらいたい。(ドゥカティマスター 友野 龍二)
間違いなくスポーツバイクです
クチバシの無かった旧型に対し、クチバシが付いてしまった現行ムルティ。某ドイツメーカーのクチバシモデルと比べられがちだが、それはお門違いってもの。ドゥカティはスポーツバイクブランドだからだ。どんなシチュエーションに持ち込もうとも、その血には逆らうことが出来ない。シグナルスタートでフロントを上げて、交差点では深いバンク角で曲がる。そして荷物満載で旅に出れるというオマケ付。デカイから置き場所には困るかも。(DUCATI BIKES 元編集長 小松 男)
どこまでも走っていける一台
背が高く大柄な車体だから、足着きはちょっと苦しい。だけど乗ってしまえばライディングポジションは楽ちん。大きな椅子にどっしりと座っているみたい。ハンドリングもゆったり。おおらかさみたいなのがあって落ち着いてる。乗り心地がソフトだから、どんな場所を走っていても快適。車体の動きもひらひらと軽快で、とても扱いやすい。見た目の大きさとは裏腹に、何もかもがフレンドリーで何処までも走って行けそうな快適バイク。(フリーライター TOMO)
ギミックがてんこ盛り
低回転域での扱いやすさを重視した「テスタストレッタ11°」はとても好み。水冷エンジンのアドバンテージを常用域でのトルクに振るやり方はドゥカティらしさに欠けるという意見もあるだろうが、市販ロードバイクとしてはこれもひとつの正解だ。4種のライディングモードもメリハリがあって使いやすく、大きく切れるハンドル角も親しみやすさを出している。街乗りからロングツーリングまで、ほんとうに使い倒せるドゥカティは画期的だ。(DUCATI BIKES 元編集部員 山下 剛)
これ一台で何でもできます
どこへ行くにも快適かつ楽しい、ある意味究極のモーターサイクル。シチュエーションに応じて4つのモード切替が可能だから、1台でだいたい事足りてしまうではないか。これが219万円で買えるなんて、タウンユースからたまに長距離ツーリングへ、という万能な使い方を考えたら、ほかに選択の余地は無い。プレミアム感、使い勝手、ブランドイメージ等と価格を天秤にかけて、BMWにするかドゥカティにするか、悩ましいところ。(VIRGIN DUCATI.com 編集部 田中 善介)
TOMOのタンデムインプレッション
やっぱりタンデムするならコレでしょう、という乗り心地。ゆとりのポジションに掴まりやすいグラブバー。そこにトップケースをつければ、うっかり居眠りしてしまいそう。とにかく見た目通り、後ろに乗ってて安心バイク。パニアケースが出っ張ってるから、乗り降りはライダーより先に乗って、あとから降りると楽ちん。
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