EICMAで発表されたのはスタンダードモデルである「スクランブラー1100(右)」にくわえ、前後にオーリンズ製サスペンションを装着するスポーツバージョンの「スクランブラー1100スポーツ(左)」、より上質なパーツを装着したカスタムモデルの「スクランブラー1100スペシャル(中)」の3モデル。
スクランブラーの魅力を
全方位的に広げる新型車「スクランブラー1100」
2017年のEICMミラノショーで発表されたスクランブラー・ファミリーの最新モデル「スクランブラー1100」の国内発売が迫ってきた。これまで排気量800ccの空冷L型二気筒エンジンを中心に、スクランブラースタイルからカフェスタイル、そして本格的なオフロードスタイルの各モデルにくわえ、排気量400ccエンジンモデルをラインナップし、新たなモデル群と世界観、そして独自のファン層を確立していた。そこに1,100ccエンジンモデルの追加となった。その国際試乗会の様子とともに、試乗した「スクランブラー1100スペシャル」について紹介する。
コンパクトでシンプルなエンジンと車体を用い、バイクを操る楽しさをストレートに表現したスクランブラー・ファミリー。共通のエンジンを使用しながら、足周りやライディングポジションを変更し、モデルラインナップを横軸方向に広げてきた。しかし「スクランブラー1100」は新たに排気量の大きなエンジンを採用し、それに合わせた専用フレームと足周りを装備。さらには車体の動きや加減速の状態などを測定するIMUを搭載し、それを元にしたコーナーリングABSやトラクションコントロールを搭載。また3つのライディングモードを持ち、そのモードはアクセル操作に対するエンジンのレスポンスや最高出力、そしてトラクションコントロールの介入度が異なるという、まさに最新の電子制御技術を搭載。1100/800/400と三種類のエンジンをラインナップしたことと合わせ、スクランブラー・ファミリーが縦軸方向へ一気に広がった印象だ。
1,100ccモデルに相応しい堂々とした車体を目指してデザインされた外装類はまさにマッチョという表現がしっくりとくる。車体に跨がると大きくなったタンクと幅が広くなったシートの存在感は大きい。しかし走り始めると、その大きさや800モデルから20kgほど重くなった車重を感じさせない。それはやはり排気量が大きくなったこと、またその出力特性をトルク重視とし、より低い回転域から豊かなトルクが出るようにセッティングされていることも大きい。
またスイングアームが伸びたことでフロントへの加重が増え、フロントにしっかりと加重が掛かることで、軽快なハンドリングに磨きがかかり、なおかつ安定感が増している。今回の試乗はそのほとんどがワインディングで行われたが、そのルート設定の理由はそこにあったのだ。
これまで欧州で盛り上がりを見せてきたネオクラシック・カテゴリーからは少し距離を置き、独自の路線を突き進んでいたようにみえたスクランブラー。しかしこの1100をリリースすることで、さらに多くのライバルたちが参入し活況を呈するネオクラシック・カテゴリーに、真っ向勝負を挑むこととなる。そこで「スクランブラー1100」がどのような地位を築いていくのか、大いに楽しみである。
試乗会の舞台となったのはポルトガル・リスボン。古い街並みと石畳の道、そして路面電車が走る歴史ある街だ。その路面電車の整備工場の一部を使ったイベントスペースをベースキャンプに使い、そこから郊外にあるワインディングへと向かった。試乗会では「スクランブラー1100クラシック」のみにライディングすることができた。
試乗会のベースキャンプ地は“ビレッジ”と名付けられていた。リスボンの隠れたベースキャンプ、的な意味だ。コンテナや二階建てバスを積み上げたスペースで試乗ルートの説明があったり、ウェルカム&試乗後のお疲れ様ドリンクが渡されるカフェカウンターがあったり、じつにユニークなスペースだった。
ドゥカティらしい軽快なハンドリングがとても印象的だった。フロント周りのアライメントを見てもさほど過激なセッティングではないが、とにかく軽快で、それでいてコーナーリング中などの安定感も高い。800モデルに比べてホイールベースが70mm近く伸びていること、また幅広の120サイズのフロントタイヤを新たに装着したことで、フロントの接地面積が増していることも影響している。
パワーよりもトルク、そしてそのトルクの出し方に徹底的にこだわったと開発陣は語っていた。それを象徴するように最大トルクは4,750回転で発揮される。したがってエンジンを高回転まで回さずとも、トルクによって車体をしっかり前に押し出してくれる。今回の試乗ルートに市街地はほとんど含まれていなかったが、道幅が狭く大きく回り込んだコーナーが連続するような、エンジン回転が落ち込むコーナーが多数あった。そこでもさほど神経質にならず、アクセルを開けて車速を乗せていけたのも1100ならではの乗り方と言える。
プレスカンファレンス会場のテーブルの上にあったデザインスケッチとノベルティ。スクランブラー1100のプロモーション動画は、バイクが銀行強盗に使われるという破天荒なモノ。そのイメージを受け継ぎ、スクランブラーオリジナルのポリスバッジと、スクランブラー1100札が入った財布がお土産として用意されていた。
「スクランブラー1100スペシャル」。スクランブラー1100は金属の風合いを大切にすることから、車体を構成するパーツにはわずか4つしか樹脂パーツを使用しなかったという。それは前後フェンダー/エアクリーナーボックス/シート下のリアフレーム内にあるサブフレーム/シート下の電装系ホルダーだ。この1100スペシャルは、その前後フェンダーもアルミ製となる。
アルミ製リムの内側にセットされるのはガラス製のヘッドライトレンズ。さらにその内側にはアルミ製のX字グリルをデザイン。70年代のエンデューロレースなどで、アクシデント時などにヘッドライトレンズの飛散を防止するためのX字のテープをモチーフにしたものだ。
800および400のスクランブラー各モデルでは丸型一眼のシンプルなメーターが採用されていたが、1100ではその丸型一眼ディスプレイにオーバルディスプレイを追加。速度や選択ギアはオーバルディスプレイに、エンジン回転計は丸型ディスプレイの下側外周に表示。その外側にインジケータを配置する。また丸型ディスプレイ中央にはライディングモードやDCTの介入度、また外気温やトリップなどの選択情報、さらには燃料計が表示される。
左側グリップ周辺のスイッチボックス。上下に矢印があるセレクターを下側に長押しすると走行モードが変更できる。ユニークなのはその名称。Active(アクティブ/スポーツの意)、Journey(ジャーニー/ツーリングの意)、City(シティ/アーバンの意)と、ドゥカティ・モデルのモード名称とは差別化されている。
エンジンは、ドゥカティのネイキッドシリーズ/モンスターが水冷化する直前に採用していたモンスター1100の空冷エンジンをベースにユーロ4をクリア。美しい冷却フィンとともに、クランクケースやベルトカバーに金属加工痕をデザインした。モンスター1100時代には最高出力100HP/最大トルク103Nmを発揮していたエンジンは、スクランブラー1100では最高出力86HP/最大トルク88Nmに抑えられている。しかしその最大トルクは4,750回転で発生。高回転域でのパワーより、街中やツーリングユースでの扱いやすさを考慮した、中低回転域でのトルクフィーリングを重視したセッティングが施されている。クローム仕上げのエキゾーストパイプは「スクランブラー1100スペシャル」のみ採用するディテール。
スチール製の燃料タンクは容量15リッター。よりマッチョなデザインが与えられているが、スクランブラー・モデルらしいティアドロップ・シェイプは受け継がれている。またその両サイドにデザインされるサイドカバーはアルミ製。1100の数字が見えるエアクリーナーカバーやオイルクーラー・カバーもアルミ製。
フロントフォークはマルゾッキ製のφ45mmの倒立タイプを装備。タイヤはこれまでのスクランブラー・モデルにも採用されたピレリ製MT60RSだが、1100は新たに120サイズを採用しており、それに合わせたMT60RSは1100のために特別に開発したものだ。スクランブラー1100スペシャルのみスポークホイールを採用する。
リアショックはカヤバ製。アルミ製スイングアームも1100用に新たに開発したものだ。またシート下に見えるアルミ製のリアフレームも新たに開発されたもの。機能パーツでありながら、スタイリングにも影響を与える重要なパーツとなる。
リアホイールは、スクランブラー800と同サイズの5.5×17インチ。タイヤも800と同サイズのピレリ製MT60RSを履く。試乗会当日、午前中は雨のなかでのテストとなったが、そんな状況でもこのタイヤは安定感があり、フロント/リアともに路面からのインフォメーションも豊富だった。またドライとなってからは走行のペースが一気に上がったが、そこでも不安を感じることはなかった。
テールライト、およびウインカーはLED。迫力あるアップタイプの二本出しサイレンサーはここに配置。ドゥカティらしい歯切れの良い排気音を聞くことができる。このスクランブラー1100スペシャルは前後ともアルミ製フェンダーを装備する。
シート表皮も、1100の3モデルはすべて違う。この1100スペシャルは全体的にシボが入ったブラウンレザー調表皮にホワイトのステッチを使用。ライダーの座面のみ、ダイヤモンド型ステッチがデザインされる。肉厚なシートは座り心地が良く、スポーツライディング時の収まりも良い。
スタンダードモデルである「スクランブラー1100」。高く、手前に引かれたバーハンドルと、前後ともに10本スポークのキャストホールを履く。
前後にオーリンズ製サスペンションを装着するスポーツバージョンの「スクランブラー1100スポーツ」。タンクのサイドパネルもブラックアウトされている。1100スペシャルと同じ、低く幅広のバーハンドルを装着している。
ライダーは身長170cm、体重68kg。両足のかかとが少し浮くものの両足をしっかりと地面に着けることができる。シート幅は広いが、それが足つき性を損なう原因にはならなかった。